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10(根米菜々緒と神尾皇紀の出会いはこの時から)
◇転勤とパワハラ
春になり一時的に寒の戻りがあったものの、そのあとすぐに
春らしい暖かで穏やかな風が吹きはじめた頃、俺は1日付で
本社に赴任してきた。
元々が地方の支店採用で本社行はないという中でのこちらへの転勤は、
しぶしぶながら3年という約束でやって来た。
地元で採用された時には転勤はないと言われていたのに、
何の前触れもなく耳打ちすらない、いきなりの辞令だった。
人事異動の内示が異動の10日前、辞令が3日前に出た。
それは非常識きわまりないものだった。
会社を辞めるという選択肢も考えたが今回は涙を呑んで転勤してきた。
それなのにどこまでもついてないというか、直属の上司浅野一之係長
43才が理由わけもなくその時の気分で無理難題を押し付けてくる
パワハラ上司でクソなヤツだった。
俺は鬱になりそうだった。
着任したばかりでグチを零こぼせる相手もおらず2ヶ月足らずで
体重が5kgも落ちた。
とばっちりを受けたい者などいないだろう。
周囲は皆見て見ぬ振り。
何もかも放り出して郷里に帰ろうか、何度もそう思いながら
何とか踏ん張っている俺に声を掛けてくれた者がいた。
それが根米菜々緒だった。
◇ ◇ ◇ ◇
「神尾くん、あんな『ヒキガエル親父』の言うことなんて
聞き流せばいいから。私が後で絞めとくわ」
そう言い、彼女は勇ましい台詞で慰めてくれた。
俺はその言葉を聞いてすぐさまこう思った。
『勇ましいのはいいけどさ、口先じゃなくてほんとに絞めてくれよー』
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