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「あなたっ、私の感じていた不安が的中したわ。
根米さんは卑劣なことのできる人だったんですよ、やはり」
「そうだな。
これでずっと私たちが望んでいた答え合わせができたというわけだ。
神尾さん、感謝します」
「お役にたててよかったです」
「あなたから聞いたということは根米さん本人はもとより、外部には
洩らしませんからご安心を」
「助かります」
俺たちはホテルの前で別れた。
根米と相手の息子が結婚するのかしないのか、俺には知る由もないが
ひとつだけ、老夫婦にとっての良いことはできたわけだ。
根米の腹黒を知っても別れないくらいその男は根米を愛しているかも
しれないし、分別のある選択ができるくらいには常識を持っている男かも
しれない。
俺はつまらない人間だ。
俺もいつかは俊哉のように好きな女性を暖かく包み込めるような
人間になれるだろうか。
ホテルからの帰り道、浮かんだのは憎んでいたはずの根米菜々緒のこと
などではなく、見てはいないが想像で見える、俊哉に寄り添って
幸せそうにしている友里の姿だった。
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