魔女の言葉にのせられて、綻ぶように恋が始まる。

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「クミィも今帰り?」 振り返ると、テオとフレドさんがいた。 「薬作りだろ?」  テオは私に染みついている薬の臭いから、そんな憶測を立てる。二人ともそんなこと気にしないけれど、臭いの染みついている今はあまり会いたくなかった。隣にいるのは隣の国エリツェリで傭兵をしていたフレドさんだ。今はここが気に入ったらしく、肉屋の養子に入り、こうやってディアトーラの見回りもしているのだ。 「テオは森周り?」 「うん」  肯くテオに私も勝手に憶測を立てる。同じ方向から歩いてきたのだったら、魔獣のいる森を見回り、真剣を領主館に返してきた帰りだ。  テオは今、領主様に頼まれてそんな仕事をしている。  意外と腕が立つんだそうだ。  ルディ様もフレドさんも声を揃えてテオを褒める。からかわれていじけていたテオが、町の者に頼られる。  そんなことないと思って、剣術の稽古を見に行くと、テオがとてもかっこよく見えた。  なんだか置いて行かれたように感じた。  西日に近い太陽の光に翳ったテオの瞳は、魔女の瞳と言われた碧に近くなっている。  ルタ様も同じ色だったのだろうか。  ルタ様とテオを勝手に重ねて、私の口は思ってもいないことを話し出す。 「私はルタ様と一緒に薬作り。羨ましいでしょう?」 テオはむすっと言う。 「俺はフレドとずっと一緒にいたんだからな」 確かに、フレドさんをカッコいいと言ったことはあるけれど。その頃から、一人称が『僕』から『俺』に変わっている。 「テオは役に立ってるの?」 「大丈夫。テオは腕が良いから、こっちが助けられるくらいだ。クミィは薬作りが上手って聞いてるよ」 フレドさんは口数が少ないけれど、優しい。テオもこのくらい優しければ良いのに。 「はい。今日は丸薬を作りました。きっとまた良く効くって話題になると思います」 ルタ様の薬は、外の国でも重宝される優れた薬だ。その手伝いをしていることは、普通に私の自慢。 「すごいな、クミィは一番弟子だ」 褒められると素直に嬉しい。でも、……。  胸が疼く。テオは昔から素っ気ない。変わったのは私の方。  ルディ様がテオを留学させたいと思っている、と話をしていたあの日から。私だけがずっと、別の世界にいるような気持ちになる。
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