第3話 支配者貧乏大魔神

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第3話 支配者貧乏大魔神

「お父さんから、いい加減に離れてくれる?」  わたしは、支配者貧乏大魔神に詰めより、床を手で叩いて奴に迫った。  奴はあぐらをかいて、部屋の中央に鎮座している。    奴は、うちの実家のリビングで、上等な紫の来客用の座布団の上に座っている。座布団の端から、紫色の綺麗な糸がふさ飾りとして出ていて、それがふわふわと揺れている。その揺れが、わたしの癇にさわる。 「わしはお前の父親が10歳の頃からついてるのだ。お前の父親が気に入ったのだ。」  奴は、今まで何度もしてきた話をまたわたしに聞かせようとしている。 「お前の父親が10歳の時、ランドセルを背中にわしの目の前を通って朝学校に行こうとしていた。偶然だが、そのお前の父親を見たときに雷に打たれたような衝撃をわしは味わった。それ以来、わしはお前の父親をひたすら貧乏で支配して、鍛えてやっているのだ。」  奴は上等な湯呑みから湯気の出ているお茶をすすり、平然とのたまわった。奴の言いぐさでは、貧乏で支配することがありがたいことのような言い草なのが、本当に癇にさわる。 「お母さーん?この人、いい加減にうちのお父さんから離れるべきだと思うんだけど?」  わたしは、思わず耐えられずに母に言いつけた。 「そうね、でも支配者貧乏大魔神だから。」  母は困ったように口ごもった。母は大魔王に遠慮して何も言えないのだ。 「あんたも何か言いなさいよ!」  わたしはそばでのんびり漫画を読んでいる弟に言った。 「はい。俺は別に今のままでいいと思ってないっすよ。」  弟は気持ち漫画から目を上げてそう言った。 「俺は、姉貴の言う通りだと思ってっから。」  弟はそう言って、また漫画に目をむける。  私は大きなため息をついた。 「だいたいね?あんたのせいで、わたしは、父親が貧乏だから二番目だと言われたのよ!」  私は思わずそう言ってしまった。今まで両親にも弟にもそのことについて話したことはなかった。  途端に、母親と弟の耳がダンボのようになるのを察知した。しまった。余計なことを思わず口走ってしまった。 「おいおい。そこのお嬢さん。」  奴は、ニタニタしながらも何かをさとすような口ぶりで言った。 「自分が振られたせいを親のせいにするなんざ、みっともないですよ。」  落語家ですか?と言いたくなるような、ふざけた口ぶりで奴はわたしに言った。  もう、知らん。わたしはこれは当分勝てまいと悟った。自力で成り上がるしかなかろう。  幸いなことに、私のようなタイプは支配者貧乏大魔神はお嫌いのようだ。それだけでも助かったと思うことか。  私はため息をついて、古びた実家を出た。
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