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時の案内人
(……真理)
頭の中に声が響いている。
(真理。目を開くんだ……)
ゆっくりと瞼を開くと徐々に霞んだ視界が鮮明になっていく。
「えっ? ここは?」
その時、私は遥か彼方まで続く真っ白な雲の絨毯の上に居た。そして私の前には黒い燕尾服を着た美男子が雲の上に浮かんでいる。自分の足下を見ると私も同じように浮いているみたいだ。
「……ここは? 貴方は?」
(僕は時の案内人。君を次の場所へ導く係だ)
「案内人?」
私は目覚める前の記憶を思い出そうとしていた。確か高校の数学の授業中だった筈。それで突然、胸が痛くなって。それ以降は覚えていない。
「次のステージって?」
(君らの言葉では天国と言うのかな。僕はそこへの案内人。多分、死神と言った方が理解出来るかもな)
その言葉にハッとした。天国、死神。つまりそれは?
「私は……死んだの?」
(まだだ。ただ時間の問題だ。ごらん)
そう彼が言った瞬間、雲の一部がスッと開いて、下方に私の高校の校庭が見えている。そこには……。
「ヘリが校庭に……」
(あれはドクターヘリだ。君を助ける為に呼ばれた。近づいてみるか)
あっという間に私は校庭に移動した。少し先をストレッチャーに乗った私が運ばれていく。
「このまま付いていってもいいの?」
横に居る死神に尋ねた。
(ああ、死ぬまでだけどな)
彼の言葉に私は小さく頷いた。
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