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ドクター安曇愛理
その数分前。濱横高校上空。
ドクターヘリは左旋回をしながら高度を落とし、ゆっくりと救急車が停まっている校庭に着陸した。
ヘリのドアを開けてフライトバックを抱えると、川橋先生と一緒に救急車へ走った。車内を覘き込むと救急隊員が女の子に胸骨圧迫をしているのが見える。
「CPAして何分ですか?」
私はもう一人の緊急隊員に確認をした。
「はい、三分前にCPAしました」
「エピネフリンを入れるわ。川橋先生。気管挿管を」
気管挿管しラインを確保すると、心臓の拍動を戻す為に強心剤を投与した。
「強心剤は効かないわね。ヘリに運びましょう」
ヘリに向かうストレッチャー上で救急隊員が胸骨圧迫を続けている。ストレッチャーをヘリに運び込むと川橋先生が胸骨圧迫を引き継いだ。
「梅澤機長。お願いします」
「分かりました、離陸します」
ヘリは校庭を離陸し高度を上げて行く。その間に川橋先生が自動胸骨圧迫装置を取り付けた。
ドクターヘリは約十分で帝国大学病院へ到着し、私達は彼女を処置室に運び込んだ。
「人工心肺の準備を! 波形を早く!」
私の指示で処置室のスタッフが素早く動く。心電モニターがセットされ一時的に胸骨圧迫を停止して波形を読んだ看護師の声が聴こえる。
「安曇先生、波形出てません」
「分かった。川橋先生、もう一度、エピネフリンを!」
そう叫びながら、人工心肺を接続する為のカニュレーションの準備を進める。ラインから再度強心剤が入った。これでVFが始まってくれれば良いけど……。
「やはり波形出ません」
「分かった、人工心肺に行くわ」
大腿静脈に脱血管を大腿動脈に送血管を挿入し、両方の管を人工心肺装置に接続する。
「接続したわ! 人工心肺を回して!」
「はい、人工心肺スタートしました!」
人工心肺装置により血流が維持され始めた。これで何とか時間稼ぎが出来る。
「心臓に直接強心剤を入れるわ。中心静脈カテーテルを!」
その指示に看護師がカテーテルのセットを渡してくれる。エコーを使って首の内頚静脈にプローブを穿刺後ガイドワイヤーを挿入し、カテーテルの先端を右心房まで伸ばす。そしてアドレナリンを直接心臓へ注入した。
「波形出ました。VFです!」
「分かった、川橋先生、除細動を!」
「はい、百五十ジュールで行きます。みんな離れて!」
彼が除細動器で電気ショックを入れる。彼女の身体がビクンと跳ねる。
「ROSCしました!」
その声に私は安堵の溜息を漏らしていた。
「薬はやっぱり直接心臓に届けないとね。良かったわ」
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