回復、そして医療の道へ

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 それから一週間が経ち、やっとICUを出れた私に安曇先生は分かり易く病状を説明してくれた。 「先生、私の心臓、どんな病気なんですか?」 「うん、説明するね。真理さんの心臓は肥大化して心筋が薄くなっているの。その結果心臓の力が弱くなっているわ。拡張型心筋症って病気よ」 「拡張型心筋症。どうやって治すんですか?」 「まずは薬物治療。お薬でどこまで治るかのチャレンジだね」 「どんな薬を使うんですか?」 「ACE阻害薬やβ遮断薬、そしてARNI薬等かな。いくつかの薬剤の投与テストをしながら真理さんに合ったお薬を決めていくわ」  先生が話すお薬名は聞いたことがないものばかりだった。 「先生、沢山のお薬があるんですね。その薬が私の心臓病を治してくれるなんて凄いなぁ」 「そうよね。この一つ一つのお薬を開発している人が居るのよ。そのお陰で沢山の人命が救われている」 「そうか、薬って誰かが開発してくれているんですよね」 「うん。だから私達医師の技術も大事だけど、薬も治療をサポートする縁の下の力持ちだと思っているわ。貴女が心停止から回復したのも強心剤って薬のお陰だしね」  その時、私は安曇先生たち医師の力とそれを支える多くの薬、そして薬を開発している沢山の人達がいる事に初めて気付いて、彼等に強い尊敬の念を抱く様になっていた。  その後、私は半年間入院をし、薬物治療の後にペースメーカを左鎖骨の皮下に埋め込んで退院することが出来た。今回の経験から安曇先生と同じような救急救命医になりたいと思っていたけど、私の心臓の力では救急救命はハードルが高かった。  だから私は医学部を卒業後、安曇薬品に入社して創薬R&D部で新薬の開発に取り組むことになる。そして私がこの会社でライフワークとしたのは(がん)の治療薬の開発だった。
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