癌治療薬クォンタム

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「これが癌治療薬クォンタムを創り出す機械(マシン)」  試作棟中央の大型の設備を見上げて安曇先生が感嘆の声を上げる。 「そうです。これがCNRTの試作零号機です」 「ねぇ、真理さん。簡単に癌治療薬クォンタムについて教えてくれない?」 「はい、先生もご存じの様に本来人間にとって異物の癌細胞はリンパ球T細胞の一種であるCTL(Cytotoxic T Lymphocyte)に攻撃され死滅する筈です。しかし癌細胞はPD―L1という腕を出してCTLのPD―1腕と結合することによって、CTLに癌細胞を正常細胞として誤認させてしまいます」  先生が大きく頷く。 「だからCTLが癌細胞に攻撃しなくなっちゃうのよね」 「はい。それでクォンタムは患者さんご自身のCTLを取り出して、そのPD―1に蓋をすることで癌細胞に対する免疫機能を有効にするんです」 「でもそうするとCTLが正常細胞まで攻撃してしまわない?」 「はい、おっしゃる通りです。動物実験でも癌細胞の死滅に大きな成果を得ていますが、ステージⅠでは副作用で実験動物の肝臓や腎臓に重大な障害が発生してしまいました」 「その対策はあるの?」 「はい、あの『マグネットナイフ』を使います」  私が指差した先にはドーナツ型の装置の前にベッドが取り付けられた設備が置かれている。 「CNRTでCTLのタンパク壁内へ鉄分子を注入して、マグネットナイフを使って癌細胞の部分だけに磁界を収束させ、CTLを癌細胞周辺に集めるんです。これをステージⅡとして動物実験で大きな成果を確認できました」 「そうかガンマーナイフと同じ原理ね。つまりPD―1に蓋をしたCTLに鉄分子を注入したものがクォンタムなのね。そこまで研究が進んでいるなら治験に移ってもよさそうだけど」 「はい、AAMCには数名の治験対象患者が入院されています。まだ治験開始の承認が出ていないので、それを待っているんです」 「それは誰が決裁者なの?」 「安曇薬品の木本社長です。社長は非常に慎重な方なので未だ治験には反対されています。もっと動物実験を使ったデーターを集めてから判断だと言われています」 「そうか。日本の製薬会社は保守的(コンサバ)だからね。こんな先進医療の治験には中々GOを出さないか。ねぇ、真理さん。治験患者さんに会わせてくれないかな?」 「はい、ご案内させて頂きます」
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