陽毬ちゃん

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陽毬ちゃん

 AAMCの入院棟に向かいながら安曇先生に患者さんの説明を行った。   「治験患者さんは二名いらっしゃいます。いずれも悪性腫瘍が脳の深部にあって手術での切除が難しく、抗癌剤やガンマーナイフでも治療の成果が上がっていない患者さんです。彼等は私達のクォンタムに最後の希望をかけています」  エレベーターで五階に上がり廊下を進んで502号室に向かった。 「ここは北見陽毬ちゃんという十七歳の女の子の部屋です。彼女は神経膠腫(グリオーマ)が脳幹を浸潤していて四肢の運動障害があります」 「はい、どうぞ」  ドアをノックすると中から女の子の声が聴こえた。ドアを開けて中に入ると中央のベッドに陽毬ちゃんが横になって点滴を受けている。そのベッドの横では心電モニターがリズミカルな音を響かせていた。 「真理先生、その人は?」  陽毬ちゃんが私の後ろに立っている安曇先生を見て声を上げた。 「スタンフォード大学の安曇愛理先生よ。私の命の恩人なの」 「こんにちは、陽毬ちゃん。どう体調は?」 「あんまりよくないかな。この点滴を入れるといつも気分が悪くなるから」  その言葉に安曇先生が点滴の表示を見ている。 「オプジーボを使っているんだ。陽毬ちゃん、この薬が病気と戦ってくれるから、少し気分が悪くなっても頑張ってね」 「分かってる。ねぇ、愛理先生。先生もお医者さんなの? 真理先生の命の恩人って」 「そうよ。昔はドクターヘリに乗ってたわ。今はアメリカで心臓外科医をやってる」  その言葉に陽毬ちゃんが大きな瞳を見開いた。 「ドクターヘリで真理先生を助けたお医者さんなんだ。凄いなぁ。私も病気治ったら、真理先生や愛理先生の様なお医者さんになりたいって思ってるんだよ」  目を輝かせてそう話す彼女に安曇先生が大きく頷いた。 「それは素敵ね。陽毬ちゃんの夢、応援するわ」
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