急変

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急変

 私はもう一人の患者さんを安曇先生に紹介した後、彼女を私のオフィスに招いた。 「陽毬ちゃんのMRI画像って見せて貰えるかしら?」  その依頼に頷きながら、机の上のタブレットを起動させて先生に渡した。 「これが彼女のMRI画像です」  先生も頷きながらタブレットを見つめている。 「これが神経膠腫(グリオーマ)ね。確かに脳幹を強く圧迫しているわ。そうか、視床下部への浸潤も始まっている。このままだと呼吸や拍動に影響が出るのも時間の問題ね」 「そうです。オプジーボを使っても神経膠腫(グリオーマ)を抑えることが出来なくて彼女の四肢麻痺は徐々に進んでいますし、確かにCPA(心肺停止)に至るのも時間の問題です。もっても数カ月だと思っています……。えっ?」  その時突然、タブレットを見つめる安曇先生の背後に燕尾服を着た男性が現れた。その男性は口角を上げて私を見つめている。 「……あの時の死神?」  その声に安曇先生がタブレットから顔を上げた。 「えっ? 後ろに何かあるの?」  先生が振り返って私の視線の先を見ている。でも彼女には死神は見えなかった様だ。 「真理さん、どうしたの?」  私が固まっていると死神がゆっくりと視界から消えていった。ハッとしながら大きく首を振る。 「あっ、ごめんなさい。なんでもありません」  そう言いながら自分の動揺を落ち着かせようとしていた。だが、更に私の心を揺さぶる問題が発生する。突然私の携帯に看護師からの着信が入って来た。 「はい、高橋です」 『高橋先生。北見陽毬さんが心停止しました』  その言葉に全身に衝撃が走った。 「CPAしてからの時間は?」  その言葉に安曇先生も驚いた表情を浮かべる。 『エマ(緊急信号)がナースセンターで鳴ったのが二分前です。先ほどから胸骨圧迫(心臓マッサージ)をしています』 「分かった。除細動器の準備は?」 『はい。今、他の看護師が準備中です』 「了解です。直ぐに行くわ」  電話を切ると。心配そうに見ている安曇先生に声を掛けた。 「陽毬ちゃんがCPAです」  安曇先生が小さく頷く。 「分かった。私も行くわ」  私は大きく頷くと、先生と一緒に陽毬ちゃんの病室に走った。
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