夜食、精液。

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 俺とみすずは、幼なじみだ。  家族ぐるみの付き合いで、醤油が切れれば借りに行くような仲だ。  異性の幼なじみ。響きはいいが、いいことなんて何もない。  くだらない内容の親子喧嘩が聞こえてきたり、窓の閉め忘れによる、よく知る熟年夫婦の夜の営みの音漏れが……なんてこと以外に特筆するような事は起きない。  小学校の時に隣に引っ越してきたが、その時には既にみすずには遊ぶ友達がいたから、たいして遊んだ記憶がない。  母親同士が仲が良くなり、夕飯をご馳走になったり、招いたりで仲良くなったが、学校ではお互い知らん振りだった。  俺は中学を受験してエスカレーター式の中高に入り、みすずは地元の公立に通った。  その頃も母親達のお喋りがてら互いの家で一緒に食事をする事はあったが、常識的な距離の隣人でしかなかった。  みすずに何か違和感を感じはじめたのは大学に通うようになってからだ。  夏の間、実家に帰ってきた俺は、帰省土産を持ってみすずの家を訪れた。電球が切れたから取り替えて欲しいと頼まれて入ったみすずの部屋ではカブトムシが大量に飼育されていた。 「これからはタンパク質供給量が減るんだって、だから昆虫食が人類を救うんだよ!」  理屈はいいかもしれないが……。 「カブトムシは不味いって動画でみたけどな」 「え?食べられないの?」 「食べられるけど不味いんだろ」 「……そ、そんな」  結局、次々と成虫になるカブトムシを近くに住む小学生に譲渡するのを手伝った。ゴキブリの方が味が良いらしいと言ったら、昆虫の話はしなくなった。
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