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しかしながら、みすずは頭を冷やしても、ダメだった。冷やすべきは頭ではなく俺との親交だ。冷やそう。凍結しよう。
やっと落ち着いて寝られそうになってきた頃に玄関のチャイムが鳴る。
ホラーだぞ、これ。
もちろん鍵はかけた。
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン ピンポーン
ピンポンピンポンピンポン!
「うるせぇ!!」
「鍵かかってたから」
「かけたんだよ!」
本気で通報するぞ。
「とにかく、近所迷惑だ。入れ」
みすずは驚くほどのナチュラルさでうちに上がり込む。
「俺がいないうちに、どれだけうちに来た?!」
「おじさんの大正琴借りてたことがあるんだー。本当は合鍵もあるよ。旅行で居ないからゆうちゃんをよろしくって」
親は味方ではなかったようだ。
完全に目が覚めた。
「はぁ。なんか小腹が空いてきた。なんかあったかな……」
冷蔵庫を開けると、作り置きの惣菜が入っていた。筑前煮、ゴボウの浅漬け、ポテトサラダ、南蛮漬け、焼豚、浸し豆、品数豊富だな。息子を残して出かけるオカンは作り置きの正しい量が分からないらしい。
「みすずも食べる?」
「わたしは、ゆうちゃんの精液を夜食に頂きますから」
さらりと言い切るのが怖い。
「……あ、そう」
無視してポテトサラダを食べる。
さて、どうしたものだろう。
「じゃあさ、仮に俺がみすずに精液を提供するとして、みすずは俺に何してくれるつもり?」
少し落ち着き、エロい好奇心が湧いてくる。なんか俺に都合の良いエロい対応があれば考えなくもないような……。
「え? わたし瀉血とかはちょっと。器具もないし」
「なんだ?しゃけつって?」
「瀉血だよ、瀉血。血を抜くんだって」
エロは吹き飛んだ。げんなりだよ。
「お前にロクでもない知識ばっかり吹き込んでるのは誰だよ? 聖香ちゃんか?マリコちゃんか? 洋子ちゃんか?」
「聖香ちゃん」
「あンのゴスロリめ!」
無駄に根性据わってると思っていたがメンヘラだったか。
「わかった。もうわかったから、歯を磨いてくるから、俺の部屋でちょっと待ってろ」
みすずは少し頭が緩い。頭が悪いのでは無いのが惜しい。勉強はちゃん出来るし身の回りの細かいことも問題ないのに、やらかす事が想定外なのだ。
悪いことに、頭は緩いが、見た目は完璧だ。色素の薄い柔らかい髪、細い手足、頭の栄養を持っていかれた証拠のような豊かな胸。普通なら天然系女の敵として君臨するはずだが、何故かみすずには頭の緩さを心配してくれる庇護者がついていた。それがみすずのブレインの女たちだ。俺は心の中で魔女と呼んでいる。賭けてもいい、全員処女だ。しかし、みすずの女友達がしっかりしていたが故に、みすずは性的に搾取されたり、別の女子から苛めに遭うことなく暮らしてこられた。
「お前、彼氏は?」
「ふられた。やらせてくれないなら別れるって」
「付き合ってどのくらいで?」
「ん……九ヶ月?」
「九……?」
最初の月に妊娠したらもう直ぐ出産するくらいの長さだぞ。
「誰の指示だ? 彼氏に禁欲を強いたのはどいつだ?!」
「みんな、すぐにやりたがる男はダメだって。本当だった。司くん、もうわたしの事好きじゃないって。もう新しい彼女がいるなんて……」
「ああ、ハイ。お気の毒です」
司くんはよく頑張った。魔女達相手に九ヶ月もよく戦ったさ。俺は責めない。そりゃ絵に描いた餅より、毎日の白飯が有難いに決まってる。
「それに、司くんはお仕事も出来ないから、あんまり栄養のあるもの食べてなかったし」
「司くんて、学生?」
「ううん。なんか、活動家? 仕事をしたら負けなんだって」
おおう。
よく魔女達が許したな。
「まあ、次に彼女が出来て良かったな、司くん」
「なんでよ! ふられた身にもなってよ!」
だいたい、何がきっかけで付き合う事になったんだよ、活動家と?!
「それで、仕事もはちゃめちゃなんだな」
「そう」
「あー、もう、内容はいい。大体想像つく」
わちゃわちゃと店内を駆け回り、色んな人に迷惑をかける様子が簡単に思い浮かぶ。
「ええ?! お店の中が鳩の糞だらけになったって、どうしてわかったの?! ゆうちゃん、エスパー?」
「……いや、それは思い付かなかった」
それで幼馴染の精液をせびりにくるなんて、メンタルむしろ強いよな。
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