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「ね、ちよりちゃん!この映画、最っ高ーに面白かったんだけど!?」
上映スクリーンから出た指宿は、目を輝かせながら興奮している。
「ちゃんと観てましたか?すごい勢いでポップコーン食べてたから、絶対内容頭に入ってないと思ってましたけど。」
ちよりはそう言いながら笑っていたが、内容が頭に入って来ていなかったのは自分の方だった。あんなに楽しみにしていた映画も、さっきの出来事で心が冷えて全く楽しめていなかったのだ。
「ほんとほんと!ゾンビが爆発して生き返る描写が連続して10回繰り返された時は気失いそうなぐらいつまんなかったけど、あれが伏線になってたんだねぇ」
「ちゃんと大事なところ観てもらえてて良かったです」
「当たり前でしょ。俺の事舐め過ぎ。」
指宿は頬を膨らませながら、下りエスカレーターに足をかける。
「この後時間ある?ご飯でも行かない?」
先にエスカレーターに乗った指宿は振り返りながらそう尋ねた。
「うーん、ちょっと疲れちゃったんで今日はやめときます。」
「そっか、無理はさせらんないね。また今度ゆっくりデートしてよ」
そう言いながら、二人はショッピングモールを後にした。
「とりあえず駅までは送らせてよね」という指宿の優しさに甘えることにしたその時、顔面に冷たさを感じた。ポタと大きな水滴がちよりの顔に落ちてきたのだ。
「…雨?」
そう言って上を見上げた瞬間、大粒の雨が音を立てて一気に降り注いできた。
「うわ、何これ!?聞いてないんですけど!」と言いながら指宿はちよりの手首を掴んだ。
「ちよりちゃん、走るよ」
そう言うと指宿は一気に走りだした。ちよりはその後を転けないように必死に着いていく。
5分ほど走ると、目を見張るような大きなマンションのエントランスに到着した。
「こういう繋ぎ方は求めてなかったんだけどな…あ、手痛くない?大丈夫?」
指宿はゆっくりと掴んでいた手を離すと、こっちと言いながらエレベーターの方へと進んでいく。
「ごめん、そのまま返す訳にいかないから俺の家に連れて来ちゃった。」と言いながら自身の着ていたシャツのボタンを外し、ちよりの肩にかける。
「濡れてる服かけても意味ないのはわかってるんだけどさ。そのままだとちょっと目のやり場に困るかな。」
そう言われて初めて自分の下着が雨に濡れて透けている事に気がついた。思わず両手で前を隠すような仕草をしてしまう。
思いもよらぬ展開に、ちよりも何が何だか分からなかったが、このまま指宿に従うことが正解だということだけはわかった。
最適解に辿り着いた2人は、エレベーターに乗り込んだ。
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