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「とりあえず鞄ここに置いといて。後で部屋に入れとく。それより先に風呂入って。風邪引いちゃう。」
指宿は雨粒の滴る鞄を玄関脇に置き、手際よくバスタオルとスウェットを持ってくると、ちよりに手渡した。
「着るもの適当に持って来たんだけど、これ1枚で着るの心許ないかな?でも下のサイズ感絶対に俺と合わないしな…」
珍しく困った表情で慌てる指宿が新鮮で、ちよりはその様子を黙って見ていた。
「とりあえず、先のことは後で考えるから。ちよりちゃんは風呂で温まってください」
さっきまで直ぐにでも家に帰りたいぐらい動揺していたのに、それどころではなくなってしまった。それでもまだ心は痛くて、裕翔に言われた言葉が頭にこびり付いて離れない。
「…指宿さんお先にどうぞ。指宿さんもそのままだと風邪引いちゃいますよ。」
渡されたタオルと部屋着を指先でぎゅっと握る。
「いや、俺は体拭いて着替えたらなんとかなるから。後で入ります。」
「…じゃあ、一緒に入りますか?」
指宿の顔を覗き込んで、そう聞いてみる。
裕翔との事でヤケになっていたのかもしれない。又は先日の自宅での指宿の悪戯っぽい発言に、仕返ししたくなったのかもしれない。
何れにせよ、ちよりらしくない発言に自分自身が一番驚いていた。私、なんでこんな事言っちゃってるんだろう。
「あのさぁ」
指宿はちよりを壁に追い込み、手をついた。
色素の薄い瞳がこちらを見つめ、ゆっくりとその美しい顔が近づいてくる。
ちよりは思わずぎゅっと強く目を瞑った。
「そういう事、冗談でも言っちゃ駄目だよ?俺、無理矢理抱く趣味はないけど、そんなこと言われたら我慢しないよ?」
その声に引き戻されるように目を開くと、いつになく真剣で怒った様な表情の指宿がこちらを見ていた。ちよりの頭はどんどん冷静になる。
指宿は少し表情を緩めると、ポンポンとちよりの頭を撫でて「早く入ってきな」と風呂に促した。
「お先にいただきます」と言うと、ちよりはそそくさとバスルームの方に消えていった。
指宿はズルズルとその場にしゃがみ込むと
「危ねぇ。なんっちゅう破壊力…」と身悶えたのであった。
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