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ちよりがぶつかった先をゆっくり見上げると、そこには弊社の大男こと真山 源人と並ぶ大きな男が、キョトンとした顔で突っ立っていた。
「天女様だ…」
それが指宿 千晃を見た時の第一印象だった。
肌荒れ一つ無く陶器の様に艶めいた顔は小さく、優しい目元は瞳に潤いを帯びて輝いている。高くスッと通った鼻。プリッとした唇に、柔らかそうな細い髪。
パーツの一つ一つが芸術品の様な美しさで、中性的なその顔に似合う体ピッタリに仕立てられたスーツ姿が、この郊外の町工場には全く馴染んでおらず、完全に浮いていた。
初めて一流の絵画を目の当たりにして言葉を失う様な、ただただ美しさを前にひれ伏す事しか出来ない様な、そういう衝撃だった。
「え、なにこの可愛い生き物…」
指宿は目をまん丸くし、ぶつけて鼻を赤くしたちよりを覗き込みながらボソっと呟いた。
「お、来たか千晃くん!」と修二郎は事務所の入り口で彼を出迎えると、「今日も無駄にかっこいいなぁ」と言いながら、指宿の背中をバシバシと叩き、ガハハと豪快に笑った。
ちよりは突然現れた暴力的な美と不躾すぎる祖父との間で百面相をしている。
「社長!お久しぶりです。今日からお世話になりまーす。…あ!もしかしてこの方が?」
指宿はそう言うとちよりの方に手の平を向けた。
「そうそう、前に話した孫のちより。経理やってる。あっちに立ってるのが真山源人。子供の頃からここに出入りしてる俺の弟子。仲良くしてやって。」
修二郎にそう紹介されると、指宿はちよりと真山に向き直った。
「亜細亜精工の指宿千晃と申します。27歳乙女座のO型。今日から半年間こちらでお世話になります。未熟者ですが宜しくお願いします!」
彼の威勢のいい挨拶に、ちよりと真山は圧倒された。
そんな2人を他所に、指宿は無言で佇むちよりの手をサッと取ると、真っ直ぐに目を見つめて
「初めましてちよりさん。こんなに可愛い人が婚約者だなんて、僕めちゃくちゃラッキーです。」
と憎たらしい程爽やかに笑いながら「宜しくお願いします」と付け加えた。
「…こ?」
え、今婚約者って言った?聞き間違いかと思い、ちよりは思わず祖父の顔を見る。
「良かったな、ちより!玉の輿だぞ」
と修二郎は豪快に笑いながら、彼女の肩をバシバシと叩いた。
ちよりは、この数分間の情報量の多さに脳の処理が追いついていないのか放心状態だ。
そんな一同を何か言いたげに見ていた真山は、ギリっと小さく歯を鳴らした。
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