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すっかり乾いた服に袖を通し、身支度を整える。
昨日ゲリラ豪雨によってボトボトになっていた鞄も指宿によって綺麗に水滴が拭われており、リビングの隅に置かれていた。
あの軽薄さはこういう心遣いの賜物なのか、こういう心遣いがあの軽薄さを生んだのかは分からないが、指宿の細やかな気遣いに惹かれている自分がいた。
「服も鞄もありがとうございます」
「酷くならなくて良かったね」
「はい。…じゃあ、そろそろお暇します。」
「では駅まで送りますね、お姫様」
どういう生き方をしていたらこんなキザな台詞が日常生活に出てくるんだろうかと思いながら、玄関の方へと歩いていく。
ープルルルルルルルルルル
静かな部屋に指宿の携帯電話が鳴り響いた。
ディスプレイを確認すると、彼の顔が少し強張る。
「ごめん、ちょっと出てもいい?」
「どうぞどうぞ」
ちよりにそう促されると、指宿は部屋の奥へと消えていった。
数分後、指宿はちよりの元へバタバタと戻ると
「ちよりちゃん、本当ごめん。駅まで送れなくなった。自分から言い出してごめん」
と深々と頭を下げた。
「いえいえ、最初からそのつもりだったんで。こちらこそ有り難うございました。ご飯もご馳走様です。月曜日、また会社で」
そう言うとちよりは指宿の部屋を出て、駅の方へと向かった。
目紛しく過ぎた休日の朝は、ちよりには眩し過ぎた。
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