6話 グイグイいけない指宿さん

3/5

44人が本棚に入れています
本棚に追加
/70ページ
その日の夕方、指宿は高梨家に帰らなかった。 「おじいちゃん、指宿さんは?」 「きみちゃんのとこ行くって。この前ベロベロになったこと詫びに行くってよ」 「…そうなんだ。じゃあ、先に2人で食べちゃおうか。」 昨夜に続き、2日続けての祖父との2人きりの食事は寂しいものだった。これまで当たり前だったことが、この短い期間でこんなにも変わってしまうものなのだろうか。 濃いめに作ったカレーの味がわからなくなるなんて、相当だな。自分の心の変化に、気づかないふりはもう出来なかった。 ◇ 夕食を終えて自室に戻っても、ちよりのもやもやは晴れなかった。急に指宿に避けられはじめたのは、やはり昨日のキスが原因だろうか。 自分でも引いている。急にあんな事するなんて。でも指宿だって散々私に触れてきたではないか、と怒りに任せて横に置いてあったクッションをボスボスと拳で叩く。 やっぱり揶揄われていただけだったんだろうか。だとしたら、恋愛に臆病になっている私に対してあまりにも軽率すぎるではないか。 悔しくなったちよりは、立ち上がり、斜めがけの小さなショルダーバッグを肩からかけると、自室を出た。 廊下を通り、玄関で靴に履き替える。 行き先は、決めていた。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加