6話 グイグイいけない指宿さん

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スナックきみこでは、腕組みをしたきみこと、椅子に座り萎縮した指宿が蛇に睨まれた蛙の構図で対峙している。 「何の用だい、童貞。この前ちよりには酔っ払いは連れて来るなって言った筈だよ。」 「いやぁ、この前の無礼を謝りたく…」 「謝る必要はないよ。そのかわりボトルおろしな」 きみこはぐいっと親指で棚に置いてあるボトルを指差した。 指宿は首を垂れながら「店で一番高いやつ、お願いします」とぼそぼそ言った。 きみこは鼻歌を歌いながら「毎日おいで」と笑顔でボトルを手に取る。 「で、何の用だい」 お通しの切り干し大根を指宿の前に置くと、きみこは本質に切り込んだ。 「俺、今ちよりちゃんから逃げてるんです」 「なんで?」 コップに氷を入れウイスキーを注ぎ込むと、それを指宿に差し出す。 「昨日、ちよりちゃんにキスされて…それからちよりちゃんを見るとどうしていいかわからなくなって、逃げてます。」 指宿はウイスキーのコップを受け取ろうとするが、きみこは差し出した手を引っ込め、大笑いし始めた。 「あ、あんた…それじゃ、ほんと…本当に童貞じゃないか…!ひゃっ、はっはっ、ははは…!」 きみこが涙を拭いながら笑うものだから、指宿はムスっとしながら、お通しの切り干し大根を無言で食べ始める。 「あんた言ってたじゃないか。ちよりに笑ってて欲しいんだろ?今のあんたの態度じゃ、あの子にはそんな思い微塵も伝わんないよ。」 「え、僕きみこさんにそんな事言ったんですか?」 「言ったよ。アタシがそんな面白い話聞き逃すはずないだろ。」 きみこの言葉に指宿は項垂れながらも、観念したかのように話を続ける。 「…わかってます。でもわかんないんです。」 どっちだよ、と思わず突っ込むきみこに、指宿は今にも泣き出しそうな表情を浮かべた。 「初めてで、わかんない。俺、まじで童貞じゃん…」 「だからずっと言ってるじゃないか。なぁ、童貞。今夜は呑まずに帰んな。で、ちよりと向き合いな。」 指宿はコクリと頷くと、ご馳走様でしたと手を合わせて帰路への身支度を整え始めた。 「おい千晃(ちあき)、これ持っていきな。私からのお土産だよ。」 指宿はきみこから手渡された物を見て一瞬固まったが、苦笑いを浮かべながら「どうも」と言って会釈した。
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