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自宅の外に出たちよりを、街灯が照らしている。
郊外で工場が立ち並ぶこの地域に住宅は少なく、この時間の人通りの寂しさは、少し不気味だ。
スナックまでの道のりは10分程と言えど、女1人で歩くには少し怖い。タクシーを使うべきか少し悩んだが、指宿と行き違いになることは避けたかった。
兎に角早く指宿と合流しよう、そして彼の真意を聞こう、と思っていたその時だった。
「ちより!」
目の前に現れた人物に、動揺を隠せなかった。
「え、なんでここに?」
佐山 裕翔が「やぁ」と手を上げながら笑顔でこちらに歩いてきた。
「なんで、家…」
ちよりは思わず後退りしながら、裕翔の様子を伺っている。
「なんでって、何回か一緒に来たじゃん。覚えてるよ、俺。」
裕翔は笑顔を崩さず、ちよりににじり寄る。
「いや、なんで来たのって聞いてるんだけど…」
「え?だってちよりが着拒取り消してくれないから連絡つかないじゃん。だから会いに来たんだよ。」
裕翔はちよりに近づくと、彼女の手首を掴んだ。その力の強さに、ちよりは振り払うことが出来ない。
「離して!お願い…離してよ!」
必死に抵抗するが、びくともしない。ちよりの表情がどんどん強張っていく。
裕翔はちよりの手首を、家とは逆方向に強く引っ張った。
「助けて…」と消え入りそうなちよりの声が、夜の街に溶けていく。
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