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17:00。
無事に製品サンプルを届け終え、定刻よりも少し早く帰宅した。
ちよりは高梨製作所の隣にある祖父の家で暮らしている。彼女の部屋は離れにあるが、日常生活の殆どを祖父の家で過ごしており、夕飯は揃ってここで食べている。
祖父が帰ってくるまでの間に終わらせるか、と冷蔵庫から大根と厚揚げを取り出して夕飯の支度に取り掛かる。
焼き魚グリルに鮭を並べ、そっと扉を閉める。
台所にはくつくつと煮える鍋の音と優しい出汁の香りが広がっている。
夕飯の下準備が終わると、炊飯器の蓋をそっと開けた。フワッと湯気が広がり、炊き立てのご飯の優しい匂いが鼻に広がる。
しゃもじで軽くかき混ぜ、そのまま少量の白米を掬うと、手慣れた様子で仏飯器へ丸くよそった。
そしてそれを慎重に仏間まで運ぶと、丁寧に仏壇に供えた。
シンとした仏間にりんの音が響き渡る。
目を閉じて手を合わせると、今日の疲れもあってかちよりの口から思わずほぅっと溜息が漏れた。
(お母さん、今日はとんでもないことに巻き込まれてしまいました。そちらの世界からおじいちゃんの悪ノリをなんとかしてください。)
ちよりは心の中で亡き母にそう唱えると、ゆっくりと瞼を持ち上げた。
「ちよりー帰ったぞー!」
入口の方からこの情緒的な夕刻とは正反対の威勢のいい祖父の声が響いた。
「おじいちゃん、お帰り〜」
ちよりは玄関まで出迎えにいくと、次の瞬間目を疑った。
「ちよりさん、ただいまぁ〜」
そこには、質の良い革靴を脱ぐ指宿の姿があった。
「お、おじいちゃん…?」
「あ、千晃くん今日からここに住むから」
修二郎はそう言うと腹減ったーと言いながらドカドカと家の中へ消えていった。
「はぁー!???」
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