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高梨家のリビングに、ちよりの作った夕食が並ぶ。ご飯に味噌汁、焼き鮭、大根と厚揚げの炊きもの。温かい湯気が美味しい香りを運んでくる。
しかしながら、その食卓を囲むちよりの表情は今朝祖父から爆弾発言をされた時よりも困惑していた。
「聞いてない。」
「千晃くんの家からここまで通うの大変だと思ってな。半年の間だしここに住んだらどうかってじいちゃんが提案したの」
修二郎はいただきますと手を合わせると、味噌汁の椀をズズっと啜った。
そんな説明で、はいそうですかと言えるほど物分かりよく出来ていないちよりは、祖父と分けて半分になった鮭を箸でグサっと刺すと大きな口を開けて放り込んだ。
「すみません。通えない距離ではないんですけど、ご厚意に甘えてしまいました。」
ちよりの態度に、流石の指宿も申し訳なさそうにシュンとしている。
「気にすんな気にすんな!さ、千晃くんも食べろ。冷めるぞ」
修二郎にそう促され、指宿もいただきますと手を合わせて大根を口に入れた。
「うんまっ!僕普段コンビニ弁当とかばっかなんで家庭的なご飯食べるの久しぶりです。なんか泣きそう」
そう言うと指宿はパクパクとおかずとご飯を交互に口へ運んだ。
食べ方の所作が美しく、育ちの良さを感じる。
ちよりは黙々と食べながらその様子を見ていて、なんだか自分一人が動じていることが大層馬鹿らしく思えてきた。自分が作った物を美味しいと喜んで食べている人を前に、空気を不味くしてどうするのかと自己嫌悪に陥る。
スゥーと深呼吸しながら空気と冷静さを同時に吸い込むと、改めていただきますと手を合わせ、目の前の食事を食べ始めた。
指宿はその様子を見つめながら柔らかく微笑み、「ご飯おかわりください」と茶碗を持ち上げた。
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