1話 猛毒のいちご味

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食べ終わった食器を台所のシンクに運び、食器洗い用のスポンジを手に取った時だった。 「ご馳走様でした。僕、洗います。」 耳元で低い声が響いたので、ちよりは思わずバッと耳を塞ぎながら振り向いてしまう。 そこには背後まで近付いていた指宿(いぶすき)が腕まくりをしながら待機していた。 「お粗末様でした」と洗い物に向き合いながら 「お客様にそんなことはさせられません」とスポンジに洗剤を垂らし、クシュクシュと揉み込む。 「お客さんじゃありません。今日から住人です」と食い下がる指宿に「半年間だけです。させられません。」と必死に抵抗したちよりが、皿を一枚掴もうとした時だった。 唐突に、スポンジを持った方の手首を指宿に掴まれた。 「ご飯のお礼、させて?」 そう言うと指宿は、じっとこちらの目を覗き込んだ。何秒ほど、そうしていただろうか。 あと数秒見つめ合えば、その澄んだ瞳に確実に吸い込まれていたと思う。 「今日は!初日で!疲れたと思うので!本当に大丈夫です!…お風呂、お先にどうぞ。場所とかはおじいちゃんに聞いてください」 真っ赤になる顔を隠しながら、ちよりはそう言うので精一杯だった。 指宿は彼女の手首を掴んだ自身の手を緩めると、ゆっくりと丁寧にちよりのシャツの袖を捲っていく。 「…一緒に入りますか?」 悪戯っぽく微笑む指宿に 「この泡、目に入れるとめちゃくちゃ痛いと思うんですよね」 と言いながら、ちよりは泡立ったスポンジを指宿の方へと向けた。 指宿はクックと笑うと「お風呂いただきます」 と言いながら台所から出ていった。 1人残された台所で、痛いぐらいに波打つ心臓の鼓動が彼に気づかれていやしないかと、そればかりが気になって仕方がなかった。
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