偽薬売りは知らぬ間にある家族を救う

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わたしの父は、生粋の詐欺師だった。 「この薬は、あなたの困った病を必ずや治してくれるでしょう」 そう言っては、偽薬を売りつけた。 もちろん、多くの人は、こんな話を信じない。けれど、少なからず信じる人はいて、いや、信じていなくとも不治の病が治るのなら、と藁をもつかむ思いで、偽薬は異常な価格で適度に売れた。幼いわたしを伴って販売していたことも、影響していたことは想像に難くない。 人の不幸でわたしは大きくなった。 そして、わたしもまた偽薬を売って生計を立てていた。 わたしは人の不幸で成長してきた身だ。今更、真っ白な道を進むことなんてできない。真っ黒に汚れた道を突き進む以外に道はない。 「お客さん、この薬があれば、医者が投げ出した病すら、治る可能性がありますよ!」 「え? どうしてそんなものを小娘が持っているのか、ですか? ああ、わたしは薬の開発者なのですよ。この薬は本当によく効くんですよ!」 「だけど、怪しいって? じゃあ、まずは身分証明から。あと、ほら、これがデータです。本当は外に持ち出したらいけないんですけど、あなただけに特別にお見せします。このデータのここ見てください。大きな数字が書かれているでしょう? これは治験者の数です。治験者ってわかりますか?」 「そうそう! これだけ多くの治験者がいて、ここ見てください。これだけの効果が得られているんです!」 「国が認可してないのがおかしい? それは国の制度が悪いんです。これだけ有用であっても、国は一に安全、二に安全、三四も安全、五も安全。少しでも副作用があると、認可が難しいんですよ。こんなに多くの人を救える可能性があるのに嘆かわしい」 などと適当な言葉を積み重ね、信用させ、偽薬を売っていく。 足がついたら困るので定住はしていないものの、それなりにお高いホテルでの生活はさせてもらっている。 わたしは高級レストランで、一人、肉を頬張りながら、明日の計画を立てる。 「明日は、少し休みにして、観光でもするかあ」 ここのところ、働きづめだったし、たまにはいいだろう。 肉汁が付いた唇を丁寧に拭き、デザートを胃に収めてからレストランを後にした。
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