この世界で一番会いたかった彼の姿がそこにはあった

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この世界で一番会いたかった彼の姿がそこにはあった

 今日も定時で帰れなかった。重い足取りで駅に向かう。  家に帰っても、寝て起きたらまた仕事だ。家には寝に帰るだけ。  そう言えばもう冷蔵庫に食べ物がなかった。大好きだった料理も、疲労のほうが勝ってやらなくなっていた。コンビニに寄って明日のご飯と、スイーツでも買ってやろう。  コンビニに入ると一直線にスイーツコーナーへ向かう。お気に入りの「杏仁風エクレア」を探すが、先週まであった場所には新発売の「抹茶チーズケーキ」が並んでいた。  悲しくなって何も買わずに店を出た。いつもそうだ。私の好きなものは世間からすぐに姿を消す。好きなジュースも、好きなゲームキャラも。自分の「好き」が一般的じゃないって言われてるみたいで切ない。  その時、急に目の前が白い光で眩しくなった。ブレーキの甲高い音が聞こえる。  ああ……願わくば、好きを貫いて幸せに生きたかった……  目を覚ますと、そこは見たこともない場所だった。  あの何年も住んでいた安いアパートの何倍もの広さの部屋で、私はキングサイズはあろうかというベッドで横になっていた。白を基調とした西洋風の部屋に明るい陽の光が差し込んでいる。  これは夢……?   幸いなことに体は自由に動かせる。私はベッドから起きて部屋に置いてあった姿見に駆け寄った。そして鏡に映った自分の姿に言葉を失う。  その時、部屋の扉がノックされた。少しして遠慮がちに開いた扉の奥から声が掛かる。 「エマお嬢様、お目覚めになりましたか?」  その言葉を聞いて私の考えは確信に変わった。  金色の髪と青みがかった瞳、そしてエマという名前。理由は分からないが、私は乙女ゲーム「魔法学校のプリンセス」に出てくる悪役令嬢、エマ・リーステンに転生してしまったらしい!  そうと分かれば一番に確認しないといけないことがある。私は部屋を飛び出した。 「ちょっと、お嬢様!?」  どこまでも続いているような長い廊下を走る。  ああ、早く……早く確かめたいのに……!
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