パラレルワールド・シュミレーション

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パラレルワールド・シュミレーション

 あちらのイケメン。こちらのイケメン。さらに向こうのイケメン。まさに眼福。イケメンをまじまじと見た記憶で私は妄想に耽る。 「美樹ちゃん、何してるの?」  サッカー部エースの白木くんが私の顔を覗き込む。 「いや。白木より僕と話したほうが美樹さんのためだ」  生徒会副会長の田原くんが白木くんの隣に立つ。 「みんな仲良くすればいいのにねぇ」  みんなの弟川田くんが更に割り込んでくる。 「へへ……幸せ……」  と妄想に耽っていたら声が出た。歴史の授業中の教室のあちらこちらで盛大なため息が漏れた。 「梶原、パラレルワールドにトリップするのは授業中以外にしておけ。お前のイケメン好きは全校生徒が認めるところだが、授業中にイケメンパラレルワールドに飛び立たれると教師としても立つ瀬がないんだよ」 「……すいません……」  こんなのは日常茶飯事。授業に飽きてきたらさぁパラレルワールドに行こうと目を閉じることもはや三年。脳内でイケメンとイチャイチャすることが止められなくなってしまった。質の悪いことにパラレルワールドにトリップ中にいつからか声が出るようになってしまった。授業中だろうが朝礼中だろうが食事中だろうが睡眠中でもトリップ中の私は声が出るらしい。それを繰り返したばかりにイケメン大好きパラレルワールドトリップ女子という長過ぎる肩書がついてしまった。後悔はない。だってマジにイケメンとイチャイチャできる気しないし、妄想ならどれだけイチャイチャしても誰にも迷惑がかからない。コスパを考えるならパラレルワールド妄想が最適なのだ。逆ハーレムだって、お手の物なのだ。 「で、その結果がこの惨憺たるテストの点数な訳ね」  やっぱりテスト中にトリップするべきではなかった。一週間後、私の歴史のテストの点数を見た親友真田真由は私のテスト用紙を私の目の前でひらひらと揺らしてみせた。 「一応さ、私ら来年受験なんだよ? 美樹は大学進学しないの?」 「一応するつもりです……」 「そうだよね! するんだよね! 私と同じ大学受けるんだよね!? で、なんでテスト中にパラレルワールドにトリップするかな!? せめてテストには集中しようよ!」 「ちょっとだけイケメン供給したかっただけで……」 「その結果がこれでしょ!」  真由は私のテスト用紙はバンっと机に叩きつけた。 「美樹、もう彼氏作りなよ? 妄想ばかりしてるからこうなるんだよ。現実を知ろうよ」 「そんな相手いないし……」 「またそう言う。美樹は認めないけどモテるんだよ? 美樹の理想が超絶イケメンだとみんな知ってるから声かけないだけで人気あるんだよ?」 「まさかぁ」  真由はがっくしと肩を落とす。 「まさか妄想にハマり過ぎて成績落とすとは……。私だって一年のときはこんなことになると思わなかったよ……」 「なんとか勉強頑張るから」 「美樹は要領いいのに妄想トリップのせいでどんどん残念になるよ。そうだパラレルワールドに行こうなんてただの冗談だと思っていたのに」 「でも真由、パラレルワールドトリップやめろなんて言わないじゃん。結局優しいよね?」 「言っても聞かないじゃん。美樹の頑固さなんてよく分かってるもの」  真由にもどうしたらいいか分からないんだ。真由に分からないことが私に分かる訳もない。 「誰かに恋しなさいよ。きっとそれが一番の解決策だ」  美樹はそう結論付けて私の席から離れていった。そんな簡単に恋できる訳ないじゃん。校内のイケメンたちは私の脳内でスパダリ化してるのだ。本人でも脳内妄想に及ばないのにどうやって恋愛対象として見るんだよ。そんなことを言えばやっぱり怒られるから口にはできないけど。
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