2人が本棚に入れています
本棚に追加
日没も大分早くなり下校の時間は空の端が赤くなる。いつもは真由と一緒に帰るのだが、今日は何だかバツが悪くて一人で歩く。イケメン妄想を始めてからテストが返された日は大体そうだ。目に見えて成績は落ちていく。真由の心配は痛いほど分かる。だがイケメン妄想はすでに私のルーティンと化している。やめられる訳がない。
「はぁ」
大きくため息を吐く。肩を落とすと後ろから声が届いた。
「梶原美樹さん」
男性の声。しかもイケボだ。これは妄想に使えるイケメンかも知れないと、私は振り返った。そこにいたのは、一年生のみんなと弟と呼ばれる可愛い系のイケメン川田優弥くんだった。
「川田くん……私に何か用?」
知っているイケメンだっただけに私のテンションは下がる。脳内の妄想で好き勝手いじってる手前、目も合わしづらい。
「今日、覚悟を決めました。僕とお付き合いしてくれませんか?」
頭の中にいくつものクエスチョンマークが飛び出してくる。川田くんがイケメンなのは知っているがそれ以外は何も知らないのだ。接点も特にある訳でもない。
「えーと、一応聞くけど私に言ってるの?」
「ええ。あなたに言ってます」
「イケメン妄想でパラレルワールドにトリップするような私に言ってるの?」
「そうです。実は僕もイケメン好きなんですよ。イケメン妄想でパラレルワールドにトリップするのは僕もよくやります。イケメンに囲まれるハーレム妄想って最高ですよね!」
この子は何を言っているのだろうってのが正直な感想だ。危ない人なんだろうか。
「えっと君、男の子だよね? 可愛い顔しているから実は女の子だというオチかな?」
「いえ、僕はしっかり男の子です。男の子でイケメン妄想が好きなんです。つまり腐男子というやつです」
なるほどBLか。それはそれで嫌いじゃないな。しかし、だが、どうして。
「私は一応女の子なんだけど、BL展開にはならないよ?」
「当たり前です。妄想と現実の区別くらいついてます。BL妄想でハーレムに飛び込むのは楽しいけど、僕の恋愛対象はちゃんと女性です。梶原先輩とならイケメン談義するのも楽しそうだし、それに」
川田くんの顔が私の顔の間近に迫る。
「妄想でイケメンとイチャイチャするより梶原先輩とイチャイチャするほうが僕にとっては有意義です」
甘い香りがした。川田くんのシャンプーの匂いだ。男の子のくせにそんな甘いシャンプーを使うなんて卑怯だ。私の胸はバックンバックンと高鳴る。
「お……お友達からなら……」
どうした私? 妄想が最高じゃなかったのか? こんな年下に惑われるなんて……。とか思いつつ期待してしまう。
「梶原先輩、ありがとうございます。これから美樹先輩って呼んでいいですか?」
小動物のような屈託のない笑顔が夕日に照らされて妖艶に感じた。弟系の破壊力えげつないな。
「構わない……です……」
と答えてから私は逃げるように走って帰って息切れして体力のなさを後悔した。
最初のコメントを投稿しよう!