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「聞いてよ!」
帰るなり真由に電話をかける。さっきあったことを話すと真由のテンションが分かりやすく上がった。
「やったじゃん! 川田くんが彼氏なんて最高じゃん!」
「でも! でもだよ! 川田くんもイケメン妄想好きなタイプで腐男子ってやつで……」
「それが何? 腐男子なんて今どき珍しくもないでしょ? 美樹と気が合うんじゃないの?」
「そうなのかな?」
「そうだよ! 川田くんが彼氏なんて勝ち組なんだよ? 美樹には相応しいと思うけど?」
「私なんかに……」
「言ったでしょ? 美樹はモテるって。美樹を彼氏に持つ川田くんも勝ち組なんだよ? 明日、紹介してね」
真由は嬉しそうに電話を切った。これ以上余計な話は聞きたくないってのが見え見えだ。
「初彼氏が川田くんなんて……。どうしよう……。妄想の内容とか聞かれたら……。引かれるかな? 引かれるよね? まさかこんなことになるなんて……」
嬉しくない訳じゃないが、今までしてきたことを考えると萎えてしまう。川田くんがどんなパラレルワールド妄想をしてきたかは知らないが、私はちょっとエッチな妄想もしてきたので気がとがめる。川田くんとイケメン談義をしたら、そんな話をする羽目になる可能性もある。嘘はつきたくない。私が川田くんのことを知らないように川田くんも私のことを知らないはずだ。関係はこれから構築するしかないが、一瞬で壊れそうな兆候もある。
「本当どうしよう……」
胃がキリキリと痛んで、その日は寝る前の日課のイケメン妄想もできなかった。イケメン妄想しようとすると川田くんの顔が浮かぶのだ。なんなら川田くんの甘いシャンプーの匂いも思い出して、なかなか寝付けなかった。
翌日。登校中の私に満面笑顔の真由が声をかけてきた。
「彼氏ができた気分はどう?」
「胃に穴が開きそう……」
「そうなるのかい? 川田くんも美樹の妄想相手の人気のイケメンじゃん?」
「だからだよ……。妄想で好き勝手いじってたから罪悪感が半端ない……」
「……面倒くさいなぁ。美樹の妄想好きを知って告白してくれたんなら、妄想を実現してくれるかも知んないのに?」
「それは妄想だからできるんだ。リアルでこれやってなんて口が裂けても言えない」
「ふうん。川田くんのほうは分からないけどね。ほら、走ってくるよ」
真由が指を差した方向から川田くんが手を振りながら走ってくる。
「美樹先輩! おはようございます!」
川田くんも真由に劣らず満面笑顔だ。
「昨晩は僕で妄想してくれましたか?」
ド直球の質問に私は血を吐きそうだ。
「申し訳なくて……」
「ええ、なんでしてくれないんですか? 美樹先輩の妄想に登場できるのはイケメンの証なんですよ? いくらでも僕で妄想してください!」
私と川田くんのやり取りを見て真由はニヤニヤしている。これ絶対余計なことをする顔だ。
「ねぇ川田くん、君、腐男子なんだって? イケメン妄想してるって?」
「真由、何言ってんの!?」
突然のぶっ込みに私はつい叫んだ。
「はい! 僕は腐男子です! イケメン妄想大好きです!」
「じゃあさ、エッチな妄想とかもする?」
「もちろんしますよ! 当たり前じゃないですか。エッチなことは人間の本能です!」
「ぐふっ」
私はつい唸った。美味しいシチュエーション……じゃなくて素直過ぎる川田くんの可愛さに声が出る。
「良かった。美樹もね、エッチなイケメン妄想してるから川田くんに嫌われるんじゃないかって心配してたのよ」
「そんなの大丈夫ですよ! 僕がいても他の方でイケメン妄想してくれて構わないし、僕のイケメン妄想も聞いて欲しいんです! 全然イケます!」
真由が私の背中をパンッと叩く。
「美樹、良かったじゃん。こんな相性のいい彼氏、もう見つかんないよ。あとは学業頑張れ」
嬉しそうな真由。他人事だと思って……。
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