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第14話 二度と会いたくなかったのに…。
あれから真面目に日常を過ごしていた。学校ではいろんな人から視線を向けられて、日向からの猛アタック。家では咲希と望美からのお誘いが絶えないが、全て断る。シてしまったら、俺が止まらなくなってしまう。まぁ、幸せな生活を送っている。
明日から一旦、望美がアメリカに帰る。すぐに戻ってくるらしい。これからは正式に共同生活が始まる。突然の新しい家族に少し戸惑ったが、今は仲良くやっている。これからも仲良く楽しい生活を新しい家族と送りたい。しかし、幸せなんてものはすぐに消える。
今日は土曜日。朝からダラダラと過ごして、昼ごはんもやっと食べ終えたところだ。現在時刻は2時。突然家のインターホンが鳴る。家には俺と咲希、そしてアメリカに戻る準備をしている望美。
家に来るとしたら、郵便か宅配便。しかしどちらも思い当たる節がない。俺は咲希に誰かわかるか聞いたが分からないと言う。
「誰だろう。俺、ちょっと行ってくるわ。」
「はーい。」
俺は鳴らされたインターホンに応答する。
「どちら様ですか?」
「………」
「あのー、どちら様ですか。」
「立花さんの家でよろしいですか?」
「そうですけど。どちら様ですか?」
「回覧板を渡しに来ました。」
あー、そういうことかと納得し、俺は玄関のドアを開け、回覧板を受け取ろうとしたその時だった。
グサッ。
俺は誰かも知らない奴に刃物で刺された。
「この家に望美と咲希がいるのは知ってる。お前が俺の娘と姉弟の関係だってことも知ってる。お前、俺の大事な娘を汚しやがって。」
男は腹に刺した包丁らしき物を握りながら、俺に呟く。
なかなか戻ってこない俺を心配して咲希が玄関に来る。
「ねぇ、颯太。誰だったの、って。誰?てか颯太。どうしたのぴくりとも動かないで。」
咲希は俺を後ろからしか見えてないから、刺されてることがわからないのだろう。俺は全力で叫ぶ。
「咲希!!望美と一緒に警察に行け!!ここは俺がなんとかするから!!」
しかし、俺が叫ぶと男も黙ってはいない。
「うるさい!!黙れ!!喋るな!!」
そう言うと男は俺の体に刺さった包丁を引き抜く。
刺されたところから血が出てくる。当たり前だ。俺は全身に力が入らず、その場に倒れる。この状況を見た咲希はその場で倒れ込む。
そして怯えて、動けなくなっていた。そして男は咲希が動けないのをいいことに近寄り、包丁を突き向けながら脅す。
「咲希、大きくなったな。お父さんだよ。一緒に家に帰ろう。なっ?」
「や、やだ、やめてこないで!!!」
「うるせぇ。黙れ。せっかく会えたんだからもっと喜べ。」
「やめて!!!こっちに来ないで!!!」
咲希が叫ぶと、2階から大きな音を立てて、望美がやってくる。最初は何事かとキョロキョロしていたが、望美は血だらけの俺を見て、『キャッ』っと声をあげたものの状況を理解し、何があったのかを大体は察した。
そして台所から包丁を持ってきて、咲希のところへ向かう。しかし、包丁を持つ手は尋常じゃないほどに震えていた。
「や、やだ、やめて。」
「大丈夫だよ。お父さん怖くないからさ。」
しかし、望美の存在に気づかずに咲希を説得している男に向かって、望美は覚悟を決めて動く。
「死ね!!!クソ親父!!!私の妹に近づくな!!!」
そう言うと望美は男の体に包丁を突き刺した。もう二度と咲希には辛い思いはしてほしくないと思ったのだろう。それが望美を突き動かした源だっただろう。
「うっ!!!」
男は刺されると、後ろを振り返って、持っていた包丁を一振り。運の悪いことにその一振りが望美の腕に当たる。
「痛い!!」
しかし望美が大きな声で叫んだ時には男は倒れて気を失う。
俺でもまだ意識があるのにチョロ過ぎないか?
そして望美は震えながら、俺に近寄る。腕を切られ、そして返り血で血の付いた手を見て、今にも泣き出しそうな望美。見るからに分かる。
明らかに挙動がおかしい。恐怖で怯えながらも勇気を出して戦った。しかも切っても切れない血のつながりのある実の父親を相手を刺すなんて、並の人間ができることではない。やはり、咲希のためだろうか。
恐怖に怯える咲希と望美を今すぐにでも抱きしめてやりたいぐらいだが、俺にはそれすらもできない。哀れだ。何もしないでただ刺されただけ。恥ずかしい。俺ももうちょっと手助けしてやりたかった。
望美は何よりも先に俺の心配をする。
「だ、大丈夫?痛い?よね。あっ、警察!じゃなくて救急車!呼ばなきゃ!颯太!あと少しの辛抱だからね。」
「お、俺は大丈夫だからさ、警察呼んでさ。さっさとこの男をどうにか、しない、と。あと望美の怪我の手当と、咲希がショックで、動けて、ない、から、さぁ。」
こうは言ったものの俺も限界だった。やはり俺も気を失ってしまった。
望美は警察を呼び、俺と男は救急車に運ばれ、咲希と望美は警察署で事情聴取。望美はちゃんと手当をしてもらったらしい。そしてこの事件を聞きつけた父さんと紗栄子さんは出張先から飛んで帰ってきた。
そして病院には父さんが、警察署には紗栄子さんが向かった。時刻は夜9時を回った頃、俺のいた病室に父さんが来る。
「颯太!!!大丈夫か?」
「俺は大丈夫だよ。お腹刺されただけ。痛かったけど。それよりも咲希と望美が。」
「まずは自分の心配をしてくれ!何も大丈夫じゃないだろ!」
「大声出さないでよ、ここ病院だよ?」
「そうだった、すまない。だけど…。」
男手一つで俺を育てたのもあって、とても心配してくれたのだろう。目には涙を浮かべている。自分で言うのもあれだが、とてもいい親を持ったと思う。
「にしても、父さん。俺に隠し事多過ぎだよ。もうちょっと俺にも相談して欲しかったな。俺だって子供じゃないんだからさぁ。」
「全部、聞いたか。相談したくなかったわけじゃない。でもな。」
「そりゃー、父さんの言いたいことは十分わかるけどさぁ。望美とかの話も何も知らなかったからさ、最初は酷い態度取っちゃったよ。許してくれたけど。」
「そうだよな。ごめん。俺が全部悪い。」
「いや、父さんが悪いとかじゃないって。俺を思って、わざと相談してなかったことなんかわかるからさ。」
「いいや、それでも教えておくべきだった。今からでは遅いかもだが、全てを話すよ。」
父さんは最初から全てを話してくれた。望美から聞いたことが大体あっていたが、父さんは細かいことも全てを教えてくれた。あの男の名前は佐々木隼人というらしい。なので島崎一家の旧姓は佐々木ということになる。
そしてなぜその佐々木は家族に暴力を振るようになったのか。それは元々DVを受けていた紗栄子さんが佐々木によって無理矢理ヤらされてできた子供が望美と咲希。できた子供は仕方ないと紗栄子さんは産む決意をしたらしい。
佐々木は子供が嫌いなわけではないらしいが、お金がかかることに苛立ち、子供にも暴力を、ということらしい。あまりにも自分勝手な奴だ。自分の価値観でしか物を判断しないし、周りの意見は聞き入れない。その上、自分の都合が悪いと自分の意見に従わせるよう、罵声、暴力、最後は刃物で体を痛めつける。
そんなことをされていたこと打ち明けてくれた、紗栄子さんを見捨てることができず、知り合いの弁護士や探偵に依頼し証拠をかき集めて、刑務所に入れることになった。もちろんかかったお金は父さんが全部出した。これだけ父さんが尽力するのには理由があった。それは死んだ母さんが残した手紙にあった一つの約束。
『この先、私が死んでしまっても、博樹のことを必要としてくれる女性がいたら、その人を大切にして愛してあげてください。そして幸せにしてあげてください。ただ私のことも忘れないで。』
といったものだった。父さんは全てを打ち明けた紗栄子さんが母さんの言う『大切にする』相手だったのだろう。
しかし、今回のことは予想できなかったと父さんは言う。それはそうだ。わざわざ刑務所送りにしたのに出所してすぐにまた犯罪を犯すなんてこと誰も思わないだろう。
ましてや、親のいない時を狙って、人を刺して、娘を連れて行こうなんてことを。それでも父さんは悔しがっていた。最後の最後まで母さんの約束を守れず、新しい家族を恐怖に晒してしまったと。責任感の強い父さんには荷が重過ぎた。
それでも母さんとの約束は守りたかったのだろうと思う。この時初めて、父さんが涙を流したのを見た。どれだけの重圧に耐えて、生活してきたか。
辛さを表情に出さないように、俺の前では笑顔を作っていた。やはり、何かを守るにはとてつもないメンタルが必要なのだろう。父さんや望美のように。
結局、泣き出した父さんを俺はどうしたらいいか分からず、とりあえず俺は何も声をかけずに見守っていた。というよりも、俺にはそれしかできなかった。
俺は咲希と望美を守ると決めたのに今日も俺が刺されて、望美に心配をさせてしまった。俺も父さんのように大切な人を守れるようになりたいと思った。
父さんを見て、育ってきた俺は1番身近にいる存在で、それがとても大きな存在だということをこの歳になってやっとわかった。
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