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第9話 親がいない生活③
お風呂から出てきた望美さん。咲希が私もお風呂に入ると言って、入ってしまった。あんまり見ないようにしようとしていたが、なんだかすごい色気があって気になってしまう。
そして今は、俺と望美さんの二人っきり。すると望美さんが話しかけてきた。
「颯太はさ、うちの妹と付き合ってるんでしょ?」
俺はびっくりして、飲んでいた水を吹き出してしまった。
「あはは、なにやってんの?汚いなぁー。」
「いや、だって。」
望美さんは物凄く笑っている。
「そんなに笑わなくて、いいじゃないですか。」
「あー、今敬語使った!罰が必要だなー。」
「いや、ちょっ、それはズルくないですか?」
「あっ、今も敬語!もうこれはとびっきりの罰を与えないとな。」
今、望美さんに触れてほしい論点はそこではない。俺と咲希が付き合ってること、それをなぜ知っているか。是非とも聞きたい。
「なんで、咲希と付き合ってるなんか言うの?」
今度は敬語に気をつけた。また論点変えられないように。
「そりゃーさー、見てればわかるもん。私だって恋愛の一つや二つくらいはしたことあるよ。」
望美さんなら、どんな男でも落とせそうな気もしなくはないが。この人もさては天然か?
「いや、恋愛はしたことあっても、僕たちが付き合ってるだなんてわかるもんじゃないですよね。」
「そういうってことは付き合ってるってことでいいんだよね?それにまた敬語になってるし、アハハハハハ。」
もうこの人にはついていけない。テンションが高すぎる。もうちょっと落ち着いてほしい。
「まぁー、でもさ。咲希と付き合うならしっかり面倒みてね?あの子ちょっと抜けてるところあるしさ。お父さんもいない。お母さんは仕事であまり家にいない。それでいて、私もまだ子供だったから、面倒を見るってほどしっかりしてないし、咲希と関わることに気が引けてた時期もあったからさ。それだから自分で全てをやり遂げようと無理をしちゃう。過去に色々あったもんだから。なにとは言わないけどね。」
どうやら咲希と望美さんとの間に何かあったんだろう。今でこそさっきのように仲良くしていたが、それもままならない時期があったのだろう。なにがあったのか。そんな少し重くなったムードで望美さんは言う。
「だから、颯太が今こうして咲希と仲良くして助け合える人がいることに安心してるんだと思う。これからは私も側にいる予定だけど、咲希が1番に頼るのは颯太だと思う。家族なんかよりもね。そういうことだからさ。これからもよろしくね。」
「咲希と望美さんの間になにがあったかは分かりませんが。少し複雑だということはわかりました。任してください。咲希は俺が絶対守るんで。」
「正直に認めたね、付き合ってるって。別に怒らんからさ。もし咲希に飽きたら言ってね。咲希の面倒は私が見るし、颯太の相手もしてあげるからさ♡」
「いや、ないです。お世話になることは。咲希一択です。」
「そっか、少し残念だなぁー。」
なんだか望美さんに吸い込まれるところだった。意外にもハイテンションの割にはしっかりしていて、頼り甲斐のある人だ。そうも話しているうちに咲希がお風呂から出てきた。
「なんか、お姉ちゃん爆笑してたけど、なにがあったの?」
「いや、それがな。アハハ。」
「あー、もう俺も風呂入ってくる。ここにいると望美さんに圧倒されそうなので。」
「もう!お姉ちゃん!なにしたのさ!」
「アハハ、アハハハハハハ。」
望美さんにはもうバレていたのか。俺がお風呂に入っている時に、望美さんが咲希に話すだろう。なにがあったかを。
俺は湯船に浸かり、さっき望美さんが言っていたことを思い返す。
『過去に色々あったもんだからさ。なにとは言わないけどね。』
なにがあったのだろう。彼氏として、家族として、知りたいところである。望美さんが関わるのをやめるほどの大事。いつかはその話について詳しく聞きたい。
だけど、今は咲希と一緒に幸せな時間を過ごすこと。望美さんが少し邪魔な感じもするが。
湯船に浸かって、温まり、頭と体を洗って、お風呂を出る。そこから聞こえてきたのは、姉妹二人が笑う声。この二人に過去、なにがあったのか。まだ俺にはなにも分からなかった。
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