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「この天使の絵……ほんとうに素敵ですね!」
ピエールは目の前に掛けてある二人の天使の絵をみながらマスターにたずねると、
「二人の天使、の絵……温かな色合いと、優しさに満ち溢れた幸せそうな二人の天使の姿……とても癒やされる素敵な絵でしょう!」
と、マスターはにこにこしながら言った。
「すてきな絵です! 二人の天使というタイトルなんですね! すごく綺麗で優しくて、心が癒されます……」
「あなたもそう感じますか!」
「はい、この絵をみているとなぜか心が癒されます。とても魂に響くというか……この絵を描かれたエリーナさんという人をご存知ですか?」
「エリーナさんはアネットさんといって、エコール・デ・ボザールに通う学生さんです。お店によく来てくださる私の知人の紹介で、この絵を飾らせていただいています」
マスターはコーヒーをテーブルにゆっくり置くと、絵に向きなおり、話しを続けた。
「1ヶ月ほど前でしたか、私の知人とアネットさんがお見えになり、絵を一枚おかせていただけませんかと頼まれました。そのときわたしはアネットさんのスケッチブックの絵をみせていただいて、とても心惹かれました。喜んでお引き受けしましたところ、こんなにも心が癒やされる素敵な絵をもってきて下さったのです」
マスターは二人の天使の絵をみながら嬉しそうに話した。
ピエールはマスターの話を聞いて、どうしてもアネットに会ってみたいと思った。
「絵を描かれたアネットさんにぜひお会いしたいのですが、今度はいつごろお見えになるかご存知ですか?」
「絵を持ってきてくださった頃は、週に2~3回は必ず見えられていたのですが、今月に入ってからはまだお見えになっていません」
「マスター、アネットさんに連絡を取りたいのですが、むずかしいでしょうか?」
マスターはたしかに、絵に関心がある人があらわれたら、すぐに連絡をくださいとアネットに頼れていたが、相手のこともよくわからずに紹介するのも気がすすまず。そこで、もう少しピエールのことを知りたいと思った。
「この絵が本当に気にいられたのですね!」
「はい……二人の天使の絵をみているとたくさんのインスピレーションを感じます。私はよく物語を書くのですが、これほど魂を揺さぶられる絵をみたのは初めてです」
そういいながらピエールは、椅子の横に無造作に置いてある古びた鞄をつかみ、その中から一冊の物語集をとりだしてマスターに手渡した。
「わたしはピエールといいます。これはわたしの、天使の愛、という物語集で、雑誌や出版社に投稿して掲載されたものを集めて、自分で本にしたものです。こんどアネットさんがみえられたら、渡していただけないでしょうか?」
マスターはピエールの物語集を開くと熱心に読み始めた。
しばらくするとマスターは目を潤ませて言った。
「まるで天使の物語だ……あなたの物語はこの絵のように心を揺さぶられる。こんなに心にしみる物語を読んだのは初めてです」
「そんなに褒めていただけるなんて……ありがとうございます」
「心にしみるというよりも、魂に響くというべきか……わかりました、アネットさんに連絡してあなたのことをお伝えします。そしてこの物語集を必ずアネットさんにお渡ししましょう」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
ピエールは目の前が、あふれるほどの光で満たされるのを感じ、あらためてアネットの絵をみつめた。
「あ、ピエールさんあなたの連絡先は?」
絵に浸っていたピエールは、マスターの声で我にかえるとあわてて返事をかえした。
「その物語集の最後のページにわたしのブログのURLや住所、電話番号が載っています」 マスターが最後のページを開くと、そこには確かに小さくブログ名とともにURLと住所、電話番号の記載があった。
「きっとアネットさんもお喜びになると思いますよ」
「ありがとうございます」
二人はしっかりと握手を交わした。
クリスマスのパリ
街路樹の枯れ葉が黄色くなり、さながら黄金のトンネルのようになった晩秋のパリ。
百貨店や商店街のショーウインドにクリスマスの飾りがあふれるように付けられている。
街のいたるところに人が溢れだし、夜はきらびやかなイルミネーションが輝き、お祭りムードを少しずつ盛り上げていた。
アネットは学校でエッフェル塔をモチーフにした水彩画の新しい制作にとりかかっていた。そんなとき、サラが主催するパーティーに招待された。パーティーにはカフェのマスターも招待されていて、アネットに渡すため、ピエールから預かっていた物語集を持って来ていた。
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