ふたりの天使の絵

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 大勢の招待客で賑わうパーティーの会場では、心が癒されるような優しいピアノの曲が流れ、きらびやかなクリスマスのキャンドルが飾られている。テーブルにはたくさんの美味しそうな料理やお酒がならべられ、それを囲むように、お洒落に着飾った招待客の楽しそうな話し声や笑い声が響き渡っていた。  アネットがパーティーの会場に着くと、グラスを片手に仲間たちと楽しそうに話をしているカフェのマスターとすぐに目が合った。 「アネットさん!お久しぶりです。きょうもお美しいですね!」  マスターは手を振りながら愛嬌ある笑顔でアネットに挨拶した。 「ありがとうございます。お久しぶりですね!」  アネットも笑顔でこたえた。 「しばらくお見えにならなかったので心配していましたよ」 「学校の課題を制作するのが忙しくて」 「大変ですね!」 「マスター。 絵を飾ってくださってありがとうございます!」  アネットはにこにこしながら絵のことをマスターに感謝した。 「いえ、こちらこそ、あんなに素敵な絵を飾らせていただけて光栄です」 「とんでもないです」 「ところで、昨日お話ししたピエールさんという物語人の青年が、あの二人の天使の絵をとても気に入られていました。そしてぜひあなたにお会いしたいと言われていましたよ」  マスターはグラスのワインを美味しそうに一口飲むと話し続けた。 「あなたにどうしても渡して欲しいと頼まれて、ピエールさんから物語集をお預かりしてきました」 「ピエールさんがわたしに物語集を!!」  アネットの目は期待と嬉しさで輝く。 「はい。まだ無名の作家ですが、魂に響く素敵な物語をお書きになります。お預かりしてきた物語集は、天使の愛、という物語集です」  そういいながらマスターは、ピエールから預かった物語集をアネットに手渡した。  アネットはさっそくピエールの物語集を開くと熱心に読み始めた。  そこに書かれているどの物語からも言葉では言い尽くせない愛しさや切なさ、懐かしさや温かさが感じられ、幸せと愛しさに包まれた、ピンクゴールドの天国の景色が蘇ってきた。 (ついに彼が私を見つけてくれた!)  アネットは心の中でさけんだ。 「アネットさんはその物語人をご存知なのですか?」 「まだ父が亡くなる前に偶然雑誌でみかけて、とても気になっていました。心を震わせ魂に響く物語を書く方です」 「わたしも物語集を読ませていただいたのですが、とても心に沁みて、優しく、温かく、魂の故郷を思い出させるような、そんな愛に溢れる物語ばかりでした」  もちろんアネットが雑誌で読んだ天使の物語もあった。  アネットは確信した。まぎれもなく彼だと。 「マスター、ありがとうございます! わたしが探していた物語人はこの方です」 「ほんとですか。お役に立てて嬉しいです!」 「ありがとうございます!」 「ピエールさんの連絡先は最後のページの下のほうに書いてありますよ」  そう親切に教えるとマスターはアネットに軽く会釈して、彼の友人達が待っているテーブル席のほうに歩いて行った。  アネットが最後のページを開くと、彼女はそこに印字されているブログのハンドルネームを見てびっくりした。そこにはブログのURLとともに小さく、ルーラン、と記載されていたから。 「まちがいないわ! ピエールさんにも前世の記憶が……ブログのハンドルネームをルーランにしていたから、検索かけたときにヒットしなかったのね……」 アネットはこの奇跡のめぐり合わせを神様に感謝した。彼女はサラの二次会の誘いも断り、パーティーを早めに切り上げた。  アネットはアパルトマンに帰るとすぐにパソコンを立ち上げ、物語集の最後のページに記載されているURLをみながらピエールのブログを開いた。そこには物語とともに美しい写真もたくさん載っていた。パソコンの前に座ったアネットはピエールの物語から伝わる波動に魂が揺さぶられ、こみ上げてくる懐かしさや愛しさに胸がはりさけそうになった。 涙は溢れ手紙を書こうにもすぐには言葉がでず。しばらくして落ち着きをとりもどすと、アネットは少しずつ手紙を書き始めた。書いては消しての繰り返しで、けっきょく書き上げた時には深夜になっていた。アネットは書き上げた手紙を翌朝もう一度読み返してポストに投函しにいった。
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