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嫉妬
天国で天使のルーランとエリーナは、とても仲の良い恋人同士だった。二人の天使は深く深く愛しあっていたので、愛の女神もうらやむほど。
ところが嫉妬深い天使のネヘーラは、ルーランとエリーナがあまりにも仲がよく、神様からとても愛されていたので、二人を激しく嫉妬し、
「妬ましいルーランとエリーナ、おまえたちを地上に突き落とし永遠に引き裂きさいてやる! 神様の愛を永久に受け取れないようにしてやるからな!」
と、嫉妬と憎悪をたぎらせた。
嫉妬に狂ったネヘーラは、ルーランを罠にかけて彼の記憶と天使の翼を奪い、地上へ突き落とした。悲しみ嘆くエリーナは、愛するルーランを追って地上へ向かおうとしたのだが、エリーナもまたネヘーラの罠にかかり、天国での記憶をすべて消されてしまうと、二人が二度と出会えないように、ルーランが降り立ったところから遠く離れた異国に突き落とされてしまった。
神様はネヘーラを厳しく罰し、天国での記憶をすべて消してしまうと、真実の愛を学ばせるために、天使の翼をとりあげて地上に落とした。
三人の天使たちが降り立ったのは21世紀のはじめの地球。
先に地上に落とされたルーランは南フランス、エクス・プロバンスのごく普通の家庭に男の子として転生し、ピエールと名づけられた。ピエールは両親から愛情深く育てられ、とても親思いで他人にも親切な青年に育った。
陽気で優しいピエールは、背が高く、少しクセ毛の黒髪に、青い瞳の知的な顔立ちの青年だったので、友人のあいだでも人気者。彼は物語を書くことが好きで、いつも小さな鞄にメモ帳とペンを持ち歩き、天から降りてきたような愛の物語を書き綴った。そして19歳になるとピエールは、書き溜めた天使の物語を持って、魂に導かれるままパリへ向かい、魂の伴侶を探す旅をはじめたのだ。
ルーランを追って地上におりたエリーナは、アメリカ東部、ボストンの裕福な家庭の一人娘として転生し、アネットと名づけられた。彼女の母親はアネットを生むとすぐに亡くなってしまったが、父親は再婚もせずにアネットを愛情深く育てた。
アネットは幼い頃から天使の絵を描くことが大好きで、「天使の絵を描くお絵描きになりたい」と夢をもっていた。父親はそんなアネットの夢を叶えてあげようと、幼いアネットに絵を習わせたり、一緒に世界中の美しいところ、地中海の青い海やアルプスの壮麗な山の風景、砂漠の神殿やライン川の神秘的なお城の数々、あるいは、北欧のエメラルドの水をたたえたフイヨルドの雄大な大自然を旅行したりした。こうして父親の愛情を一身に受けて育ったアネットは、感受性豊かで家族や他人にも親切な明るく優しい女性に育った。
ハイスクールに入ったアネットは、絵の勉強をさらに一生懸命し、美しい天使の絵を描き続けた。アネットの天使の絵は、かすかに残る天国での魂の記憶をイメージして描かれていたので、愛に満ち溢れ、今にも絵の中の天使が話しかけてきそうなほど生き生きとしていた。やがてハイスクールを卒業したアネットは父親の許しを得て、魂に導かれるままフランスに渡り魂の伴侶を探す旅を始めた。フランスに渡ったアネットは、パリ市内の美術学校に入学した。天国での記憶こそ消されていたが、魂にはしっかりと天国でのルーランとの愛の記憶が刻み込まれていた。
シルクのようにしなやかで少しウェーブのかかった長い金髪、優美な顔立ち、ブルー・グレイの澄んだ瞳の美貌の彼女には、いつも沢山の素敵な仲間たちがいた。しかし、好きな天使の絵を描くこともでき、明るく優しい友人たちに囲まれながらも、アネットの魂が満たされることは決してなかった。
神様に罰されて堕天したネヘーラはパリの裏町に転生し、マリナと名づけられた。彼女の母親は、マリナを生むとすぐに息を引き取った。
マリナの父親は母親が死んだのはお前のせいだと言って、いつもマリナを責めたて、酒に溺れては娘に暴力をふるった。マリナは子供の頃から働かされ、稼いだ僅かばかりのお金はすべて父親にとりあげられ、父親のギャンブルとお酒に消えた。
マリナが15歳の時転機が訪れた。
酒に酔って暴れる父親の暴力に耐えかねたマリナは、荒れ狂う父親に酷く殴られたので、無我夢中で掴んだ花瓶を父親の頭にたたきつけた。その瞬間、父親は大声で喚き、血まみれの顔を両手で押さえて床にうずくまった。
マリナは恐ろしくなり、喚く父親を尻目に、家中のお金をすべて持って家を飛び出した。
その後、マリナは、いろんな男の家を転々としてまわり、18歳の時にモンマルトルのピガールにあるバーのスタッフとして働き始めた。
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