ふたりの天使の絵

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 ピエールはマリナのお店を出た後いいようのない疲れを感じた。  彼もまた天国での出来事が魂に刻み込まれていたので、直感的にマリナになにか危険なものを感じたのだ。ピエールはマリナにできるだけ接触したくないと思った。  いっぽうマリナは、ピエールが店を出て行くと満足感でいっぱいだった。実はカードの結果はピエールに話したこととは正反対の結果だったから。  12月にピエールが出会う女性は運命の出会いで最高の幸せをもたらすという、マリナが今までめったに見たこともないような良い結果だったのだ。ところがその良い結果を見た瞬間、天国でネヘーラだったときの悪いクセ、人の幸せを激しく妬むという、あの魂の悪いクセが出てしまった。しかも目の前にはあの妬ましいルーランの魂が転生したピエールがいたので、マリナは本能的に悪意に満ちた結果を伝えたのだから。  その数ヶ月後、マリナはお店に来るお金持ちの常連客に店をあげてもらうと、パトロンになったその男から占いの店をパリ市内に出してもらった。  マリナには同棲している恋人がいたが、恋人にパトロンができたことを隠し、パトロンにも恋人がいることを隠していた。  今のマリナはどんな男でも簡単に手玉にとれると自信満々だった。じっさい、美しく妖艶なマリナの深い紫の瞳に見詰められると男達は瞬く間にマリナの虜になった。   魂の旅  アネットは美術学校の卒業を来年にひかえていたが、今年に入って急に体調が悪くなった父親から「学校を卒業したらアメリカに帰って来て欲しい」と言われていた。  アネットは父親の健康のことがとても気になったが、魂の伴侶との出会いを信じてパリまできたのだ。彼女は卒業までになんとか魂の伴侶に出会いたいと願い、毎日神様に「父が早く健康になりますように。そして、卒業までに魂の伴侶にめぐり合えますように」と、祈り続けた。するとある日、アネットは不思議な夢をみた。夢の中には書店で雑誌を見ている自分の姿が出ていて、その雑誌に掲載されている天使のことを綴った物語を熱心に読んでいた。その物語の終わりには作者の名前が書いていたが、はっきり見えなくて、夢はそこで終わり目が覚めた。  その夢を見てからアネットは夢のことがとても気になってしかたがなく。彼女は暇をみつけては本屋に入ってそれらしい雑誌を探してみましたが、夢の中にでてきたような雑誌を見つけることはできなかった。ところがアネットが夢のことをすっかり忘れかけたある夏の日、たまたま入った書店でなにげなく手にとった雑誌に、夢でみた天使の物語をみつけた。アネットは天使の物語を読んだ瞬間、その物語はまるで自分に送られた魂のメッセージのように感じ、彼女の魂は激しく疼いたのだった。  アネットはこんなに魂に響く物語を読んだことは今までになかった。作者はピエールとだけ書いてあり、アネットはこの物語を書いたピエールという人に会ってみたいと思った。 そこですぐに雑誌社に問い合わせてみることにしたが、その矢先、病気がちだった父親の健康状態が急に悪くなって入院したと、ボストンの祖母から急な連絡が入った。アネットは驚き、急ぎ帰国することにした。アネットの父親は悪性の癌を患っていたが、父親は留学中のアネットに心配をかけたくないと思い、癌であることを隠していた。  幸いアネットがボストンの病院で父親に面会した時はまだ少し話すことができた。父親はアネットを呼ぶと聞き取れないほどのかすかな声で言った。 「学校はだいじょうぶなのか……もういいよ……」  そういってアネットにフランスに戻るようにうながした。 「学校なら大丈夫だから」と、アネットは父親に心配かけまいと笑顔でこたえた。父親はそれを聞いて安心したのか目をとじて眠った。  アネットは、父親の意識がまだしっかりしていると感じたので、その日は安心して家に帰ることにしたが、別れはその二日後に突然やってきた。アネットがショッピングセンターで買い物をしている時に携帯電話が鳴った。父親の主治医からで、容態が急変し危篤に陥っているという電話だった。アネットはすぐに病院に駆けつけましたが父親は話すこともできないくらい衰弱していた。
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