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サラの話しに乗ってきたものの、アネットはなぜかマリナに魂の伴侶のことを話す気になれなかったから。自分の中のもっとも大切なものを他人に触られたくないという思いもあったが、それ以上に目の前のマリナには絶対に話したくはないと思った。
アネットがなかなか質問にこたえないので、マリナは質問を変えてより優しく尋ねた。「なにかとても寂しそうな感じに見受けられますが、最近、心を痛めるような、とても悲しいことでもありましたか?」
「……はい……」
父親が亡くなったショックで心のバランスを失っていたアネットは、マリナのなにげない質問に心の中を見透かされたように感じて動揺し、父親が亡くなったことや魂の伴侶に出会いたいと願っていることをついうっかり話してしまった。
「先月 父が急死して、身体の一部をもぎ取られるほどの辛い悲しみをあじわいました。母はすでに他界しているので、もう年老いた祖父母しか家族はいません……とても寂しいです……もちろん沢山の友人はいますが、人生のパートナーといえる魂の伴侶に早く出会いたいと願っています……」
アネットが話し終わると、マリナは、「大変だったのですね」と、ありきたりの言葉で慰めた。
「いま、気になる人とか、あなたにアプローチしてくるような異性はいますか?」
「感じのいい人はたくさんいますが特に気になる人はいません」
マリナはカードをカットしながら話し始めた。
「運命の出会いってそんなに衝撃的なものではありませんよ。むしろご縁というものは、出会ってから徐々に深まっていくものです。まして、魂の伴侶との出会いは奇跡に近いといわれるほど難しいのですよ」
マリナはたしなめるように言った。
「それでは今後、運命の人との出会いがあるかみていきましょう」
そういうとマリナはカードをテーブルに広げ、両手でシャッフルをはじめた。カードがよく混ざったところで、彼女はカードを集め手際よくカットした後、そのカードが二つの正三角形を逆に重ねた形となるようにテーブルに並べていった。
カードを並び終えるとマリナは一枚ずつ丁寧にめくりはじめ、それが終ると、近くに置いていた天使のカードを手に取り、3回ほど軽くカットして、既に展開されたカードの上に重ねた。すべてのカードを展開し終えると、マリナはカードのお告げを話し始めた。しかし、マリナはとっさに、アネットを幸せに導くようなアドバイスをしたくないと思った。
マリナにとってもっとも妬ましい存在だったエリーナの魂を目の前にすると天国にいた時の魂の記憶が疼いたのだ。
マリナはまたしても魂の悪いクセがでてしまい、アネットに嘘のアドバイスをはじめた。
「まず12月に出会いがありますが、12月に出会う男性は悪魔のご縁で必ず不幸をもたらします。この男性は必ずあなたを不幸にしますので注意してください。運命の出会いは来年の6月になります。この男性は天使のご縁ですから必ずあなたを幸せにしてくれるでしょう。出会いまでまだ少し時間がありますが楽しみに待っていて下さいね!」
アネットはマリナが話し終わるとすぐに質問した。
「来年に運命の出会いがあるのですね……でもその方は魂の伴侶ではないのでしょう?」 アネットが魂の伴侶にこだわるので、マリナは諭すように言った。
「まずこの広い地球上で出会ったということが奇跡なのです。しかも男女として。そういう意味では出会う人すべてがソウルメイトであり魂の伴侶でもあるといえるのですよ」
アネットはなおもすっきりしない。
マリナはアネットが納得できてないことを察していたので話つづけた。
「特別な魂の伴侶にこだわりすぎると大切な出会いを逃してしまうことにもなります。幸せになるにはもっと心を広くもって視野を広げ、いろいろな人とお付き合いしてみることも大切ではないかと思いますよ」
アネットは黙ってマリナが話し終わるのを待っていた。
「ほかになにかみて欲しいことはありませんか?」
マリナは自分のペースで話せて満足した。
アネットは来なければよかったと思った。
「とくにありません。よく考えてみます。今日はありがとうございます」と、そういうとアネットはさっと席をたち鑑定ルームから出て店を後にして、サラもアネットを追うようにマリナのお店を出て行った。
サラはいい結果がでたと自分のことのように喜んでいたが、アネットはマリナからいい印象を受けなかった。
アネットは、マリナから感じる暗黒のエネルギーにあてられ、とても疲れを感じた。
彼女はサラのお茶の誘いも断りすぐにアパルトマンに帰ることにした。
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