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いっぽう、マリナも二人がでていった後なぜかイライラし、とくにアネットをみてすぐに虫が好かないと感じた。マリナの天国での魂の記憶が無意識に蘇ったからだった。
マリナは反射的にアネットの不幸を願い、魂から沸きあがる暗黒の感情を抑えることができなかった。マリナの魂のクセ、疑り深く嫉妬深いという魂の悪いクセは人間になってからもなおらず、彼女は地上でも再びピエールとアネットを引き裂こうとしたのだ。
マリナはピエールとアネットにかぎらず、せっかくお店に来てくれるどのお客さまにたいしても、虫が好かないと思ったら、わざと不幸になるようなアドバイスをしていた。
神様はマリナが愛に目覚め、人々に慈悲深く生きるようにと、特別な霊感を与えたのに、マリナは魂の悪いクセをなおそうとせず、いつまでも神様から与えられたチャンスに気付かなかった。
愛の奇跡
アパルトマンに帰り着くと、日が沈みかけていた。アネットは窓を少し開け、ソファに座るとゆったりとくつろいだ。マリナに会ってとても疲れを感じていた。
アネットがそのままソファで横になると、少しだけ開けた窓から心地よい風が入ってきた。全身を天使の羽根で優しく撫でられるようなそんな感覚に包まれながら、アネットはいつのまにか深い眠りにおちた。
アネットは小さい頃の夢をみていた。
「お父さま、あたし天使の絵を描くお絵描きさんになりたい」
「アネットは天使が好きだね」
「だってあたし天使だもん」
「アネットは天使だよ」
「もちろんよ!」
「アネットに、天使がいる世界中の美しいところをすべて見せてあげるよ」
「わーい!」
それから夢には、アネットが父親と一緒に旅行した世界中の美しいところ、地中海の青い海やアルプスの壮麗な山の風景、砂漠の神殿やライン川の神秘的なお城の数々、あるいは北欧のエメラルドの水をたたえたフイヨルドの雄大な大自然を幸せそうに見てまわるシーンが次々と流れた。しばらくするとアネットは、見渡す限りキラキラ輝く緑の草原で、 優しい風に吹かれていた。そこにはピンク、黄色、オレンジ、紫、色とりどりの美しい花がたくさん咲きみだれていて、蓮華の香りが漂っていた。青空にはクリッとした目の可愛い小鳥たちが楽しそうに飛んでいる。
とつぜん幼いころ家族のように可愛がっていた愛犬テラがとびついてきた。
テラはアネットについてくるように促すと、エメラルドグリーンの澄み切った湖のそばにある、白い木造の家にアネットを案内した。
アネットが家に近づくと玄関の前に、亡くなったはずの父親と母親が立っていて、アネットに笑顔で手を振っていた。
アネットは嬉しさのあまり涙が溢れた。
父親も母親も涙を流して喜んでいた。アネットは両親が立っているところまで走っていくと、三人はしっかりと抱き合い、テラも嬉しそうに尻尾をふった。
父親と母親は、今はいつも一緒でとても幸せだといい、そう言いうと父親は微笑みながらアネットに1冊の薄い本をみせた。それは天使の物語集と書いてあったが、父親がその物語集をアネットに手渡すところで夢から覚めた。
目を覚ますと朝日が部屋に優しくさしこんでいた。
アネットは夢の中で両親と再会できてとても幸せだった。
寝ているときも涙が流れていたけれど、目が覚めてからもたくさんの涙がこぼれおちた。
二人ともいつも一緒で、天国で幸せに暮らしていることがわかったので、アネットはとても幸福感に満たされた。
アネットは夢の中で父親から手渡された天使の物語集のことを思い出した。
すぐにあの冊子のことだと思い、机の引き出しを探すとピエールの天使の物語が掲載された冊子を見つけた。
アネットがページをめくりピエールの物語を一字一句ていねいに読みかえすと、物語の一篇一篇に込められた、彼の愛の想いが魂に伝わってくるのを感じた。
「心に響いても魂に響かないと……すべてがそう……この物語は魂に響く天使の物語……」
アネットはピエールの物語を読んで絵のイメージがどんどんわいてきた。
物語からこれほどまでにエネルギーとインスピレーションを感じたことは今までに無かった。アネットはとつぜん素敵な天使の絵のイメージが降りてきたので、あわててアトリエにはいり、部屋にあったもっとも大きなサイズのキャンバスに絵を描きはじめた。
物語を読んで感じたさまざまなイメージ、懐かしさ、愛しさ、優しさ、心地よさ、それ以上の言い尽くせない想いをそのまま表現した。
光り輝く宝石のようなたくさんのイメージは、天から降りてきたとしか言いようがなく。絵はほとんど一日かけて描きあげた。
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