ふたりの天使の絵

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 イーゼルに立てかけられたキャンバスには、幸せそうに手を繋いでいる二人の天使が、美しい羽根をひろげ、ピンクゴールドの光に包まれながら、虹色の光にむかって飛んでいる姿が描かれていた。  アネットは出来上がった絵をみると魂から響く幸せを感じた。  そのとき不思議なことがおきた。カーテンの隙間から金色に光る玉が舞い降りてきたのだ。  アネットは舞い降りてきた光の玉を両手で大切に受けとめると、光の玉が手のひらから零れ落ちないようにゆっくりとソファに腰掛けた。  光の玉はアネットに話しかけた。 「絵をみながらそっと目をとじて」  アネットは光の玉にいわれたとおり二人の天使の絵をみながら静かに目を閉じると、自然に瞑想にはいっていった。すると瞑想の中でアネットは天国でのことを少しだけ思い出した。 「青い空、心地よい風が吹き抜ける緑の草原、色とりどりの花々や、光の柱の中を小さな天使たちが楽しそうに飛び回っている様子。愛しいルーラン。そうわたしたちはとても深く愛し合っていた……幸せな毎日、わたしはエリーナ、彼はルーラン、わたしたちは恋人同士だった。そして……あっ! あの占い師は天国でネへーラだった……そうネヘーラの嫉妬がわたしたちを引き裂いた……わたしはルーランを追って地上に舞い降りてきた」  アネットが地上におりたったところで、彼女は静かに瞑想から覚めた。  気がつくと手のひらから光の玉はいなくなっていた。  不思議な光の導きで彼女は自然と瞑想にはいり、断片的だったがたくさんのことを思い出した。 「ルーランは転生してこの物語をかいたピエールという人に生まれ変わったのだわ……きっとそう……でも彼はわたしに気づいてくれるかしら……」  突然降りてくる魂の記憶に戸惑いながらも、アネットの心は不安よりも期待で大きく膨らんだ。 「明日、すぐにでもピエールさんに連絡してみよう……」  カーテンの隙間からみえる星の光は、アネットを励ますようにキラキラと瞬いていた。    翌朝、さっそくアネットはピエールの物語が掲載された雑誌社に連絡してみた。アネットは手元にある雑誌のバックナンバーを担当者に伝えて、天使の物語を投稿したピエールの連絡先を調べてもらおうと思った。ところが雑誌社の人は、掲載された作品の作者の連絡先までは保管していないという。期待が大きかっただけにアネットの落胆ぶりはひどかった。 「彼は必ずパリにいるはずだわ。それにまた雑誌に物語が掲載されるはず。この冊子にかぎらずほかの雑誌や新聞にも投稿しているかもしれない……」  アネットは美術学校にいくとすぐ図書館に行き、ここ数ヶ月間の雑誌や新聞をほとんど探してみた。しかし、どこにもピエールの物語を見つけることはできない。もしかしたらブログがあるかもしれないと思ってインターネットで、天使の物語、や、彼の名前、を打ち込んで検索をかけてみたが、それらしいブログもヒットしない。  アネットはとてもがっかりした。  せっかく父親の死から立ち直ったように見えていたアネットが、今度は物語作家の連絡先がわからないと言って、ふさぎこんでいるのを見かねた親友のサラがアネットにある提案を持ちかけた。 「わたしの知人が経営しているモンマルトルのカフェには、パリで活躍する作家や芸術家がよく集まるの。そこにあなたのあの二人の天使の絵を飾らせてもらったらどうかしら。雑誌に物語が載るような方ならそのカフェに通っているかもよ。そして、もしあなたが思うとおりの人なら、あなたの絵をみて必ずピンと来るはずだわ」  話が決まると二人はすぐにサラの知人が経営するというモンマルトルのカフェに行ってみた。  二人がカフェに入ると、カウンターの中央にいる50歳台半ばぐらいの、口髭が少しある感じのいい紳士が、愛想よく二人に挨拶した。 「いらっしゃいませ。サラさんお久しぶりですね!」 「こんにちわマスター!」 「そちらのお嬢さんは?」 「親友のアネットです。」  紹介されてアネットはにこにこしながらマスターに挨拶した。 「はじめましてアネットです。落ち着いた雰囲気の素敵なお店ですね! 壁に飾られているどの絵も素晴らしいです!」 「アネットさんありがとうございます! このお店の絵はすべて、画家を夢見てこのモンマルトルにこられた方々が描かれた作品ばかりなのですよ」  マスターが話し終わると、三人はあらためてお店の中にたくさん飾られている、モンマルトルの街並み、キラキラ輝く朝のセーヌ川、パリの夜景などを描いた沢山の叙情溢れる絵を見た。  おたがいの挨拶が終わると、サラはお店のマスターにアネットの絵を紹介し、そしてある人を探すためにアネットの絵をお店に飾らせて欲しいと相談した。
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