坊と鬼。

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色々と信じられないことが重なって、どうやら僕はまだ生きているらしかった。 朝起きて目を開けると、隣にはとても美しい人が……しかし彼には人間には本来あるはずのない角が生えていた。 何度目をこすってみても、そっと近くで見てみても、それは作り物やまがい物ではないらしかった。 どうやら彼は神様の1種、鬼神というものに分類される生き物らしい。 いつどうやって産まれたのか聞くと、「人が恐れる心からさ」そう答えてくれた。 その答えを聞いてもイマイチよく分からなかった僕のことを、鬼神はクスクスと笑いながら、「バカも時には可愛いの」と言った。 「それでお前、これからどうする。」 「僕はもう…里には帰れません。」 「何か、やましいことでもしたか?」 「そんなこと!やましいことをしたのは僕ではなくて…アイツらで……」 グッと胸が詰まる。 言葉が最後まで出きる前に、僕は口元を押さえた。 「あいつらは……男どもが僕を襲おうとしたんだ!僕はただ、自分の身を守ろうとしただけなんだ……気づいたら体に傷があって、僕は、」 「もう良い、坊。私の中に来なさい。」 もうどこにもすがるところがなくなった僕は、最後の最後で鬼の胸の中に飛び込んだ。 「辛かっただろう、苦しかったであろう。もうどこにも帰れなどとは言わん。心穏やかになるまで…気が済むまでここにいればよい。」 「うっ…鬼なのに、どうしてそんなに優しい?」 「言ったであろう?私は、人の心が持つ恐れから生まれた神だ。生まれた時から呪いなのだ。誰も受け入れてなどくれぬ。今のお前の心が、私には手に取るようにわかるのだ。」 鬼は僕のことを優しい力で抱きしめる。 その柔らかさと暖かさが母上に似ていて。 「無駄に涙を流すでない。坊よ。私のために魚を捕ってこい。」 あなたのことはなんと呼べばいい? その問いに、鬼はぽつりと「好きな名で呼べばいいさ」とつぶやいた。
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