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15.第一王子派の崩壊
フリードリヒは、自分の側近が王妃ディアナに詳細な予定を漏らしたことに気付いており、彼を解雇の上、降爵した。
ディアナはフリードリヒの執務室に呼ばれた。
「余がなぜそなたをここに呼んだかわかるか?」
「…いえ」
「いや、わかっているはずだ。余は側近を更迭した。余の予定を漏らしたからだ」
「謁見は秘密ではありませんよね?」
「だが、その後の予定は公開されていなかった。そのような予定が無関係の人間に漏らされるのは、警備上、問題だ」
「でも私は王妃。陛下の妻ではありませんか。それにユリア嬢はマクシミリアンの婚約者です」
「ユリア嬢はまだ王族ではない。余の公務とは無関係だ。二度目はない。この次、このようなことをすれば、2人とも離宮に幽閉だ」
「……陛下、彼女はマクシミリアンのためにしたのです。あの子をお救い下さい!マクシミリアンの無残な状況をご存知なのでしょう?あのプライドの高いマクシミリアンから人としての尊厳まで失われているのです!あの子が正気に戻ってそれに気が付いたら、どんなに傷つくでしょう!お願いです、今すぐ医師の診察を受けさせてあげて下さいませ!」
「あと、1週間で謹慎1ヶ月が解ける。そうしたら医師の診察を受けさせる」
「それどころか、まともに食事もとれなくて今は命の危険すらあるのです!お願いいたします!」
「あと1週間だ」
「…そんな!」
絶望するディアナを顧みることなく、フリードリヒは護衛騎士に声をかけた。
「王妃が退出する。送り出してくれ」
王の執務室から追い出されたディアナは、血が滲みそうなぐらい固く拳を握りながら、自室に戻って行った。
1週間が過ぎ、マクシミリアンの謹慎が解けた。しかし、1ヶ月間苛まれた禁断症状の影響は大きく、マクシミリアンは正気を取り戻していなかった。彼の部屋からは四六時中、奇声が聞こえていた。寝台のすぐ脇にはチャンバーポットと吐しゃ物用の洗面器が置かれ、マクシミリアンは赤ん坊のようにおむつをつけられた。だから北の塔にいた時のように吐しゃ物や排泄物が垂れ流しになることはめったになかったが、失敗した時にすぐに片付けられずに異臭がすることもあった。
第一王子のそんな状態を晒すわけにいかず、マクシミリアンは面会謝絶になった。医師の派遣は許され、ワン医師の治療が再開されたが、急激に悪化した禁断症状をすぐに治すことはできず、ユリアが父から得た猶予期間よりも長い時間が必要となることは明らかだった。
面会謝絶になったとは言っても世話をする使用人は必要である。緘口令を敷いたのだが、人の口には戸が立てられないものだ。そこからマクシミリアンの無残な状況が王宮中に広まっていった。そんな人間に仕えたいと思う者がいなくなるのは当然で、王妃派=第一王子派は急激に崩壊していった。マクシミリアンが失脚して王位継承権が剥奪されるのも時間の問題かと思われた。
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