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21.隠し子
ディアナはさっそくフリードリヒに会いに行き、人払いをさせた。
「陛下にとってマクシミリアンは次男、ヴィルヘルムは三男ですね。長男を引き取る気はないでしょうか?」
フリードリヒは表情を全く崩さずに黙ってディアナに視線を向けた。
「ルイス・ウィンチェスター。またの名をルードヴィヒ。全て調べはついております」
「教会の手前、公に実子と認めるわけにはいかない」
「彼は陛下から渡された我が王家の紋章付き指輪を所有しています。このままかの国に置いておくと、彼を利用しようとする者が出てくることでしょう」
「そこまで知っているのか」
「ええ」
ディアナは悔しさと悲しみをこらえながら微笑んだ。
「だから国王の親族として彼を私達の養子にすることを提案いたします。陛下には若くして亡くなった叔父様がいらっしゃいましたね。その方は未婚のまま子供を残さずに亡くなったと聞いております。でも実はその方に今はもう亡くなっている子供がいて、その子供、つまり叔父様の孫はまだ生きている-それがルードヴィヒだったということにするのです」
「そんな馬鹿な話が通るか!叔父上は17歳で亡くなったんだぞ!婚約者もいた!」
「子供は17歳でも作れます。だからこそ関係者が生きているうちは先代王弟の隠し子と孫の存在を公表するわけにはいかなかったと…」
フリードリヒの叔父は18歳で結婚する予定だったが、その前年に落馬事故で亡くなった。元婚約者は国内の高位貴族に嫁いだ。彼女の夫は10年前に、彼女自身は昨年亡くなった。
「私には叔父上の記憶はない。それでも彼が誹りを受けるようなでっち上げには賛成できない。それに元婚約者の子供はまだ生きていて有力貴族だ」
「それでは陛下の大叔父様が婚前に作った子供の孫というのはどうでしょう?大叔父様はご結婚が遅く、子供ができなかったと聞いております。大叔父様の曾孫では引き取る理由が少し弱いですが、シュタインベルク王国の紋章がついた指輪が代々受け継がれているということにすれば、そのような王家の子孫が野放しにされているよりは引き取るほうがいいだろうとなるでしょう」
「そこまでするのか?」
「長年離れていた息子を手元に置けるようになるのです。陛下にとって悪い話ではないでしょう?」
「何を企んでいる?」
「何も。愛する陛下のために役立ちたいと思っただけです」
ディアナがアナの依頼でルードヴィヒを養子縁組しようとすることは、フリードリヒには内密にしてある。
「その代わり、聞いていただきたいことがあるのです。マクシミリアンを廃嫡しないで下さい」
「あれはもうだめだ。あんな状態になっては王家の恥だ」
「マクシミリアンも貴方の息子ではありませんか!」
「だが出来損ないだ。余を落胆させた」
「どんな子でも息子は息子です!」
「平民の子ならそうも言えるだろうが、あれは王子だ。そんな交換条件なら、ルードヴィヒを無理に養子にしなくてもよい」
「いえ、マクシミリアンから王位継承権を陛下が剥奪しないでいただけるのなら、私が放棄させます。少しほとぼりが冷めたら王家直轄領と爵位を下賜して下さい。マクシミリアンには王位とは無関係にユリア嬢と平穏に暮らさせてあげたいのです」
「廃人に領地と爵位をやることはできない。臣下に示しがつかない。それにユリア嬢はヴィルヘルムに娶らせる」
「は、『廃人』!言うに事欠いてそんな!」
「糞尿と吐しゃ物垂れ流しの阿片中毒患者は廃人とは言わないかな?そんな人間が王子だなんて王家の恥さらしだ」
「今は治療を受けて徐々によくなってきています!」
「まぁ、そういうことにしておこう。半年以内に状態が改善しなければ王位継承権は剥奪だ。これが最大限の譲歩だ」
「もしそうなっても、ユリア嬢だけはマクシミリアンから取り上げないで下さい」
「取り上げるも何も、自ら婚約破棄を宣言したではないか。しかもねんごろになった別の女のためにだ」
「あ、あれは…」
「あれは何だというのだ?」
「いえ、マクシミリアンは本当はユリア嬢を愛しています。どうか彼女だけは彼から取り上げないで下さいまし」
「そんなに頼むなら、ユリア嬢本人に聞くんだな。ユリア嬢がマクシミリアンとともに生きたいというなら、その交換条件を呑もう」
ユリアは突然国王夫妻に呼び出され、マクシミリアンとの婚約をどうするか聞かれたが、養子縁組の計画については何も知らされなかった。ユリアはもちろんマクシミリアンとともに生きていきたいと国王夫妻に告げた。ラウエンブルク公爵は反対したが、王命には逆らえず、2人の婚約は続行することになった。その裏ではルードヴィヒの養子縁組も密かに進められることになった。
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