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27.親子の別れ
「さあ、マクシミリアンに会いに行こう。来なさい」
右腕をフリードリヒが、左腕を王の護衛騎士が掴んでディアナは両側から拘束される形で塔の別の階へ移動した。
「済まないが、形式上必要なのだ」
フリードリヒはディアナの耳元で囁いた。こんな時だと言うのに耳にかかった夫の吐息にディアナはドキッと感じた。だがその気分はマクシミリアンの姿を見て吹き飛んだ。
「ああっ!マクシミリアン!」
阿片の禁断症状に苛まれているマクシミリアンの部屋は、排泄物と吐しゃ物の匂いが相まって酷く匂った。掛布もかけずに寝台に横たわっているマクシミリアン自身も髪の毛や顔に乾いた吐しゃ物がついたままで、粗相をしたばかりなのかトラウザーの股の部分が濡れ、寝具も吐しゃ物と排泄物で汚れており、酷く臭い。
マクシミリアンは声のする方向に顔をゆっくりと向けたが、ディアナが誰だかわかっていないようだった。頬と目が落ち窪んだマクシミリアンは骨と皮のように痩せ衰え、かつての美貌はもはや伺えず、どろりと濁った瞳にも知性の光は見えなかった。
ディアナは変わり果てた息子の姿に涙を浮かべながら彼の手をとった。
「……誰?」
「ディアナよ、貴方の母よ。それと陛下、貴方の父よ」
「マ…マ?」
マクシミリアンの濁った目には父親の姿は全く映っていなかった。
「そうよ、貴方のママよ。ごめんなさいね、出来損ないのママで……うっうっうっ……ママは遠くに行かなきゃいけないの。でも貴方が元気でいるようにいつも祈っているからね」
「嫌だ!行かないで、ママ!」
パニックになったマクシミリアンが暴れだし、フリードリヒの護衛騎士が取り押さえ、牢番達を呼んだ。牢番達は、不潔なマクシミリアンに触るのも嫌そうだったが、王命に逆らえず、マクシミリアンを寝台に拘束した。
「陛下、お願いです。彼が落ち着いたら、部屋を掃除して入浴させて清潔な服を着させてあげて下さい。それと定期的に医師の診察もお願いします」
「恐れながら、どうせまた汚すから意味がないかと……」
フリードリヒが答える前に牢番達の1人が口をはさみ、フリードリヒは彼らをぎょろりと睨んだ。
「誰が発言していいと許した?」
「ひいっ!も、申し訳ありません!」
「部屋を掃除してマクシミリアンを入浴させて着替えさせろ。明日の午後、人を寄こす。それまでに済ませておけ。そうしたら医師の診察を受けさせる。わかったな?」
「「かしこまりました」」
フリードリヒ達がマクシミリアンの部屋を去った後、牢番達は息を止めながらマクシミリアンの汚れた服を脱がせ、入浴させた。
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