第1話 『河中シュウイチ』

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ

第1話 『河中シュウイチ』

俺の名前は、「河中シュウイチ」。大学を卒業し、外食事業を営む会社に入社。今はファミリーレストランの店長をしている。 俺は至って平凡な人間だ。いや、むしろ並以下の人間だと思う。基本的に、やる気がない。 子供の時から、これといった夢はなかったし、何かに一生懸命打ち込んだ事もない。 学生時代、学業成績は普通だったが、得意科目と言えるものはなかった。唯一、楽しいと感じた科目は、美術だった。 油絵を描くのが楽しかった。鉛筆やボールペンなどのペン先の細い筆記具で絵を描くのは苦手だったが、白いキャンバスにペンキのように塗りたくる感触が好きだった。 ただ成績は5段階の3だったー。 部活には、入っておらず、帰宅部だった。 だからと言って、余った時間を趣味やアルバイトに打ち込んだというわけではない。 大学に入ってからは、心機一転活動的な人間になろうと努力したけど、周囲のイケイケキャラの迫力に圧倒され、地味な大学生活を過ごしてきた。女性とは無縁の人生だ。 元々の無気力な性格から、何にも関心のないタイプだと思われがちだが、周囲からの印象とは裏腹に、何事もネガティブに受け取ってしまうところがあるのが悩みだ。 相手の何気ない一言がどうも気になって眠れない。そんな神経質な性格でもある。 将来就きたい仕事なんて何もなかったから、とりあえず地元の会社に就職した。 何度もやめようと思ったけれど、退職するのも面倒くさい。惰性で今の仕事を続けている。自分の時間を毎月の給料と交換しているという感じだ。 仕事に「やりがい」なんて微塵も感じたことはない。「経験と慣れ」が今の仕事をこなしていける理由だ。 入社まもなく、本社で研修を受け、シュウイチはなぜか店舗の現場に配属された。所謂、接客から学ばされたのである。これが一番上手くできなかった印象がある。ただ、この経験のおかげで、心を「無」にすることを覚えた。 しばらくすると、店舗の運営を任されるようになった。店長といっても、何事も決めるのは本社だ。シュウイチに権限はない。店長というポジションにあるが、「管理者」という呼び名の方がしっくりくる。 そんなシュウイチだったが、ある日、本社から驚愕の事実を告げられるー。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!