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第4話➂ 『新規採用』
時刻は16時過ぎ。約束の時間に彼女はまだ来ていない。約束の時間は15時である。
左手に着けたカシオのデジタルウォッチを見ながら思った。
「約束の時間過ぎてんじゃないかよ。学生だからって。仕方ないなあ。」
とシュウイチは、寛容だった。
というのも、シュウイチが中学生の頃、オサムという男がいた。当時友達はほとんどいなかったが、唯一会話のする仲だったと言ってもいいかもしれない。
オサムとは、感性が似ていたようだ。テレビで放送されたお笑いのネタ番組で、とあるコンビがシュールなコントをしていた。
次の日、急にオサムが話しかけてきた。
「シュウイチ、昨日のお笑いみた?」
「あ、見たよ。」
「あのクソつまんなかったコンビ、めっちゃウケたんだけど!」
「え、おれも!」
と、お笑いコンビの話で盛り上がった。ちなみに、番組観覧席にいるお客さんは、静まり返っていたー。
「あ、ははは!それな!そうなんだよ!あれはやばかったよ!」と二人は意気投合した。
シュウイチが友人と話して、笑い転げている姿を当時のクラスメイトはあまり見たことがなかったから、教室がな空気に包まれていたのを感じだが、それを気にも留めない程、シュウイチは笑っていた。
意気投合した二人は、
「今度の日曜日映画でも見にいかない」とオサムが言いだし、
「いいよ!行く行く!」とシュウイチが返事をした。
だが、当日シュウイチはドタキャンした。楽しかった自分が、本当の自分ではないと考えてしまったからだ。楽しいのは、自分じゃない気がした。気持ちが悪かった。
だから、シュウイチはその約束をドタキャンした。
こんな経験があるから、当日になって行動したくなくなる学生の気持ちはよく分かった。
「面接の子、遅いですねー」
和泉がそう言うと、シュウイチは、
「う~ん、でも大学生ってそんなもんだろ」
と返した。
和泉は、「遅刻するのに、連絡の一つも入れないなんて非常識すぎます」と言った。
「まあな」
高校生が大人顔負けの態度で、常識を口にしたことに少し違和感を覚え、居心地が悪くなって、一言呟き、事務所を後にした。
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