優しい観客と幸福の風音

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昔からあたしは、とにかく幸せになりたかった。 幸せの定義は三つ。 それは愛・お金・自由。 全て叶えてくれそうな男と無理やり仲良くなって、攻略に必要とあらば、よく知りもしないうちに身体を重ねた。 それなのに幸せになれない。 一番欲しい愛は一番遠く、身体を重ねても気持ちいいだけで幸せの実感がない。嫌な行為だって求められればするし、避妊したくないと言われたら自分で薬を飲んで自衛した。 次に欲しいお金は、最初だけいっぱい貰える。でも関係が数ヶ月も続けば、なんだかんだとケチられて、自然消滅みたいに終わっちゃう。 で、そこら辺を少し満たしてくれるような男と付き合うと、束縛されて自由がなくなる。そして結局あたしが耐えられなくなり、関係を切るしかなくなっちゃう。 無理して頑張って、早く幸せにならなきゃ女の賞味期限が切れちゃうっていう意味不明な焦りが、さらに男に媚びて身体を売る悪循環になって、安い風俗嬢みたいな自分が本当に嫌になっている。 もっと家が裕福で、もっと美人に生まれていたら良かったのに、結局ただの凡人には幸せなんか得られないんじゃないかって()()(くさ)れる始末だ。
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