優しい観客と幸福の風音

麻美先輩は、見えない虹でも見るように、または雲の輪郭をなぞるかのようにして、澄んだ美声で言った。

「努力の末に幸せになることと、無理して幸せになることは、その定義からして違うんよ。理香が求める三つは、本来なら自然体で掴めるモンや。あるがままに生きながら、必要なことをちゃんとすれば、それは幸せの種を蒔く行為。種に与える水や肥料を大切にする。そしたら幸せの花が咲いて、すんなり三拍子揃うことも珍しくない」

あたしは信じられない。

「だって無理しなきゃ、いい男なんか捕まえられないでしょう。努力なんて報われない。そんなのみんな知ってます」

反論したけど、ほぼ瞬殺みたいに退けられた。

「努力にも二種類あるんよ。貫く努力と、無駄な努力。何が何でもがむしゃらに頑張ったところで、結果は出んし報われることもないよ」

そんな、無駄な努力って⋯、人はそれでも努力しろって教えられてきたんだ。

「誰も、先輩みたいにできる人ばかりじゃないんです。無駄な努力でもしなくちゃ、前に進めないって思います」

すると、先輩は小さく首を振った。