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ザザザッザッ、ザザッザッザッ……。
暗いほら穴の中。
一人の女性が、何者かに両足をつかまれて、ずるずると奥へ引きずられていく。
無数の石ころや、地面から突きだした岩に、背中の皮ふや肉はこすれ、時には削りとられる。
それでも、女性はもう痛みを感じていない。
体中からあらゆる感覚が失われてしまったようだ。
だが、そんな彼女にも、まだ生きたいという意思だけは残っていた。
ゆっくりまぶたを開けると、おぼろげに人の輪郭が見えてくる。
暗闇の中でも、少しずつ目は慣れてくるものなのだ。
自分をほら穴の奥へと運んでいく者の、背中、腕、そして後頭部――。
それが誰なのか、女にはわかった。
はっきりと記憶がよみがえってきた。
「お願い……。助けて……」
彼女の口からもれた、かすかな声。
次の瞬間、辺りは静まり返った。
女を引きずっていた者が足を止めたのだ。
「……まだ生きてたのか」
ふり返ることもなく、その者がつぶやいた。
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