219人が本棚に入れています
本棚に追加
別れは突然に
「悪いな、壮。俺、もうお前とは付き合えねぇよ」
練習を終え、一緒に食事をして店から歩いて戻る途中で恋人関係にあった京極 祥太郎が突然そう言った。一ノ瀬 壮馬の足が止まる。
ずっと幼い頃から思い描いていた、親友の祥太郎と同じ球団のユニホームを着て日本一になると言う夢を目前に控えた、ある寒い夜の事だった。
いつかこう言う日が来るかも知れないと多少の覚悟はしていたのだが、結婚後も彼の態度は以前と全く変わらなかったから、ずっとこの関係が続くものだとばかり思っていた。
不倫なんて百害あって一利なし。世間では決して歓迎されることでは無いし、まして自分達はエンターティナー。沢山の人達に夢や希望を与える仕事をしているのだから、スキャンダルはご法度。
本来なら、祥太郎が結婚を決めた時点できちんと関係を終わらせておくべきだったのだ。
捨てきれない秘めた想いは自分の心のうちに留めておけば良かったのに、彼が拒まないのをいい事にここまでズルズルと関係を長引かせてしまった。
当然と言われれば当然の結果だが、実際に本人の口から聞かされるのは流石に堪える。
「そ、そう。だよね」
動揺し、声が詰まりそうになるのをグッと堪えて数歩前を歩く彼に言った。
壮馬を振り返った祥太郎は、少し困ったような表情をしていた。その顔を見て、胸の奥が締め付けられるように痛む。
「おい、大丈夫かよ」
「大丈夫さ。わかってた事だから」
祥太郎に家族がある限り、自分は絶対彼の一番にはなれない。そんな事、ずっと昔からわかっている。
最初のコメントを投稿しよう!