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「お疲れさまでした」
「部屋まで送るって。あっ、ここからは夜バージョンってことか…そうかそうか」
「……いえ」
「今、一瞬考えたよね?遠慮しないで、ハイハイ」
井原さんのマンション前で長い指をネクタイの結び目に掛けて、クイクイッ…と緩める彼がセクシーさを増すのを見ながら
「いつも思うんですけど…聞いていいですか?」
と思うだけで聞いたことのない疑問をぶつけてみる。
「俺が和紗にノーって言うことは有り得ない。どうぞ」
どうぞ、だけでいい…何なら頷くだけでいいんだけど彼の返事はこうだ。それを長ったらしい、クドい言葉に感じるのが普通なんだろうけど、やっぱり彼のハッピーオーラが軽やかな音色に変えている。
「井原さんは仕事もスーパー出来て、セクシーさを兼ね備えたイケメンで、ヘンタ……ちょっと変わったところがあっても天性の人たらしって部分でカバーしてるのか…周りに人が寄ってくるでしょ?老若男女問わずモテる」
「ヤッタ…ヤキモチゲット」
「違いますけど」
「ごめん。質問をぶった切ったね、俺」
「……安定の…羨ましいポジティブさですけど…こんなに私に時間を使うっていうか…こんなのいつまで続けるつもりですか?今だって、ここに井原さんのマンションがあるのに通り過ぎて送るとかってタイパ悪過ぎでしょ?」
はっ?私が言い切った瞬間、バッ…と彼のスーツの袖が音を立てて✕を作った。
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