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私は彼より1年あとに入社した。
入社式は会社が用意してくれたホテルに前泊して、本社の秦野茶園で合同で行われ、その後の研修は秦野茶園とはたの茶寮別々に行われた。
私の入社したはたの茶寮の研修は、店舗勤務と事務局でも分かれていた。そして2週間の研修最終日、新人事務員4人は総務部長と井原さんと一緒に店舗へ行った。
事務員も店舗を知るべき、そう聞いて電車に乗った時には、仕事でスイーツってラッキー!と、抑えきれないワクワクからニヤけていたかもしれない…
結構混み合った車両に乗り込むと、花柄ステッキを使っているお婆さんが目の前にいた。優先座席まで遠いから諦めているのかな…まあまあ立ち方はしっかりとされた方だけど…失礼かな、と思いつつ、ドア横の手すりを無言で…そっと手で勧めるとお婆さんはにっこりと私と場所を変わって手すりを握った。
良かった…人に何かを勧めたり、勧められて断ったり…私の苦手なことだから…大袈裟に感謝されるのも苦手だし、今日は静かに手すりを持ってくれたから良かった。
そのあと店舗では6人でテーブルに座ると、何でも注文していいと言われる。私はここでワクワク絶頂になるはずが、ちょっと…考えてしまった。
「うん?福居さん、質問?質問も遠慮なく新人にしてみて」
と井原さんがメニューを持つ私に言ってから、手をあげるのを
「すみませんっ、質問は…こっちで、質問いいですか?」
と慌てて止めた。そして部長に
「私達だけ食べていいんでしょうか…同じ新入社員なんですけど…」
しかも思い切り就業時間中の15時だ…とソワソワとする。
「いいんですよ。店舗の社員は、お客様への説明のために初日から食べてます。だから4人は、遠慮なくいくつでも注文して下さい」
最高に美味しい仕事じゃないか…はたの茶寮バンザイ。
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