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僕の高校は県内有数の進学校で、国公立大学や地元大学の医学部合わせての進学実績率が毎年全体の約半分を占める。
これほどの進学校なので、県下でもかなりの優秀な生徒が多く集まっている。
そして僕たちの目の前にいる彼もそのひとりなのだ。
喜多見優世。彼は県内にある大病院の創業一族で、かつその病院の現院長の長男に当たる。
さっぱりしたツンツン髪に、きりりとした目はいつも自信に満ちあふれている。
その整った容姿に185cmはあるだろう高身長、清潔感もあり、さらに色気ムンムンだ。
校内でモテないはずもなく、いつも何人かの女子に囲まれている。
僕とは雲泥…否、天と地…否、月とすっぽんぐらいの差だ。
そしてしかも彼は……、
「なんだー? またいつものしち面倒な仕事をやってるのか?」
「そうよ、悪い?」
「いんや、悪くはない。悪くはないが、ほんとドMな性格だなと」
三鬼さんの無二の幼馴染なのだ。美男美女のお似合いカップルで、彼女はおそらく将来彼と結ばれるのだろう。
それが一番彼女が幸せになれる方法だと思う。
だから決して僕は二人の邪魔をしてはいけない、いけないんだ……。
そしていま彼は珍しくスマホをいじりながら一人で廊下にいる。
「あなたねぇ。よくまあそんな人の怒る言葉が毎度出てくるもんね」
「いやあ、そんな感激するなって。照れるだろ?」
「ぜんぜん褒めてないんだけど」
彼はとてもおちゃらけた感じで、終始にやにやしている。
「……それより、隣の彼は?」
そう彼はすっと目線を僕に移し、好奇の目でじーっとこっちを見る。
「真柴くんよ。うちのクラスメイト」
「ほー?」
変わらずにやにやして、じろじろと僕の外見を見る。そして彼は僕に近寄っては、
「真弓美はいつもなにかしらの仕事を受け持っているから、たくさん人をコキ使ってくる。だから君も気をつけて」
……。
僕は二人の邪魔を決してしてはいけない……。
「こんな面倒くさい仕事しなきゃあ、そもそもそんな重い荷物を持つ必要ないのになー」
そう二人の邪魔を……。
「お前が一人で頑張るのは良いけどさ、他人を使うまでの仕事をするんじゃない。手伝ってくれるクラスメイトには甚だ迷惑なんだぞーっ」
邪魔……。
「なあ、真柴君もそう思うだろ?」
「………っ、ぼっ僕は………いや僕も、クラスの仕事を好きでやっているから、迷惑だなんてこれっぽっちも思ってない!」
「……!」
一瞬にしてその場がシンと凍りつく。
そして僕はすぐにハッと気づく。珍しく人に強く言ってしまった。
僕はこの気まずい空気に耐えられず、すっとその場から離れ、荷物を職員室まで戻しに行ったのだ。
変な空気にしてしまった……。出過ぎた真似をして、嫌われてないだろうか?
そうもやもやしながら僕は職員室から出ると、彼女──三鬼さんがとても穏やかなものごしで待ってくれていた。
そして僕たちはしばらく静かに教室の方に向かっていると、
「さっきはゴメンね……」
彼女が申し訳なく僕に謝るのだ。
「嫌な思いにさせちゃって……。ほんとあのバカは他人のことをいつも二の次でさ……、すぐ調子に乗るどうしようもない奴なの」
「……」
「けどさすがにあのバカも今回はやりすぎたと思ったみたいでね。バカはバカなりにいたく反省してたから。『すまない』と貴方に伝えてくれって、そう言ってたわ」
「……」
僕はなにも言わず、ただ黙って聞いていた。そして彼女は穏やかな猫のような口調で、
「その……ありがとう。あんなこと言ってくれたの初めてだったから……とても嬉しかったわ」
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