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いまかかりつけ病院に行き、僕は週に一度の定期治療を行っている。
僕の病気は未だ治療不可能な状態のため、点滴を使って白血病細胞をコントロールしている。
少しでもこの世に踏み留まりたいからだ。
僕は点滴のくすりがポタポタと下に落ちているのをじっと眺める。
僕の命の蝋を長くするのと同時に、終わりまでの時を刻んでいる気分になる。
やはり徐々に貧血の頻度は増加しているから……。
僕は拳を握り締めながら、残り短くなる自らの命を再確認する。
──僕には時間がない……。
◇◇◇
学校は今てんやわんやだ。
体育祭が近づき、クラスの熱気が溢れている。そうすると必然的に仕事の量が増えるわけで……。
「真柴くん、あれ持って来て」
「はい!」
「職員室まで運ぶのお願い!」
「あ、はい!」
毎日が大忙しだ。こけないように気をつけながら、日々必死に取り組んでいる。
しかしこういう日に限ってというか。否、こういう日だからこそというべきか。
色々な学生の今まで水面下だった気持ちが学校内でトラブルとして出てくる。
学力、友人関係、部活などいろいろなことが原因でケンカが勃発する。
そして殊にうちのクラスメイトが関与している時は、三鬼さんがよく仲裁に入っていた。
今日だってそうだ。
ケンカの片方がうちのクラスメイトだったので、三鬼さんはその仲裁にその二人がいる2階の廊下に急いで向かうのだった。
ある日僕は珍しく教室に忘れ物をしたので、学校に戻っていった。もう外は薄暗い。教室に行くと、電気が2、3個点いている。
覗いてみるとなんと居残って一人仕事をする彼女の姿だった。
必死に向き合って仕事を頑張る彼女に僕はとても身体が熱くなる。しかしまた一方で彼女のその余裕のなさがどこか無理をしている風にも感じ取れた。
そして疲れを取るためか、体を伸ばしてゆっくりと深いため息をはく。少しだるそうだ。
僕はこの期を狙って声をかけた。
「三鬼さん」
「え……!? 真柴くん!?」
彼女は瞠目した目でこちらを見るが、僕は一切気にせず、彼女の隣に座ってまだ残っている作業を黙ってし始めた。
「いいよ、私の仕事だから……!真柴くんかがやらなくても!」
「駄目っ。手伝うよ」
「え? でも……」
「三鬼さんはすぐ一人でなんでもしようとする。必死に頑張る姿は本当に凄いと思う。でも君は何もかも一人で抱え込み過ぎてる。こういう時はいつも辛そうだ。今だってそう。どこか辛そうな表情をしている」
「……」
「今だけは……。そう、今だけで良いから……。僕が君の気持ちを受け止めたいんだ……」
「!」
彼女は瞬きせずにじっとこちらを見る。僕は隣を見ずにもくもくと作業をしていると、彼女は小さく詰まりながらも柔らかい声色で、
「真柴くん……」
「うん?」
「ありがと……」
「……」
こうして僕たちは体育祭の準備を片付けていくのだった。
数日後に開催された体育祭は無事に終了した。うちのクラスは惜しくも2位だ。
そしてこのお祭りに疲れた僕は日陰のある校舎の片隅で、一人ジュース缶を手に持ってくつろいでいると、
「あ、こんなところにいた~!」
彼女──三鬼さんが嬉しそうな表情でこっちにやって来たのだ。
彼女がスポーツドリンクを携えて、僕の近くで座る。
汗で濡れた体操服が彼女のラインを強調し、とても艶めかしくなって僕はついドキッとする。
「ど、どうしてここに……?」
「ん? それは真柴くんと一緒にいようと思って」
少し照れて言う彼女がとても可愛くて、僕はこの世に未練を持ち始めた。
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